【半身浴で夏パテを乗り切る】

「大名にはなるものではない」。安芸広島42万6000石の最後の藩主、浅野長勲(ながこと)(1842〜1937年)はそう嘆いた。一般に思われているほど、殿様の生活は楽ではない。くつろげるはずの入浴で、それができないのだから少しは察しがつくだろう。

長勲によると、湯殿までの距離が遠くても行き帰りはいつも麻の袷(あわせ)の浴衣1枚だそうだ。夏はいいとして、冬は寒くてたまらないが、「寒い」などと言えないのが殿様なのである。

風呂に入るのも大変。まずお供の小姓を湯殿の戸口に待たせて中に入る。体は自分で洗うわけではない。湯殿には側坊主という体を洗う者が控えている。湯加減を決めるのも面倒だ。家来 が湯の温度を十分に確かめているのだが、熱くて入れないこともある。この場合、自分で湯を水で薄めることはできないし、側坊主にそのことを告げることもできない。身分の低い者に直接言葉をかけることができないためだ。

こういう時には殿様は「熱い、どうも熱くて入れぬ」などと、わざとらしい独り言を言う。それを聞いた側坊主が外に控えている小姓に「殿様には御意の御様子にございます」と伝える。すると、小姓が殿様に尋ねる。「殿、お言葉にございますか」。「どうも湯が少し熱いようである」。こうしてやっと湯がぬるめられるのだが、その間殿様は立ちっぱなしだ。殿様も風呂ぐらいは1人でのんびりと入りたかったことだろう。

「水毒」の解消がカギ
蒸し暑い日本の夏は、入浴で1日の汗を流してさっぱりしてから、寝つきたいもの。エアコンの充実した現代でもだ。入浴は、夏バテを防ぐためにも大切である。エアコンのおかげで汗をかく機会が減り、体に「水」がたまりやすくなっているからだ。

夏バテの原因は睡眠不足や自律神経の失調などが挙げられるが、東洋医学的には、そこには「水毒」があると見る。水毒とは、体の水はけが悪くなり、水分が停滞した状態を指す。人体の70%は水分なので、体の水分代謝がうまくいかなければ様々な問題が発生すると考えられる。それが疲労感や食欲不振を訴える夏バテとされている。

こうした夏バテを防ぐには、気持ちのいい汗をどんどんかくこと。スポーツで汗をかいた後に、爽快感があるのは、1つには水毒が解消するためとも言える。入浴による発汗も心地いい。 特にデスクワークをしている人は、下半身に水がたまりやすい。そこで、ウォーキングをした後に38〜39度程度のぬるめの半身浴で汗をかくと、夏バテを解消するのに効果的だ。胸の下あ たりまで湯につかる半身浴なら、20分くらいゆっくりと湯につかることができる。入浴後は、水分補給も忘れないよう心がけたい。

昨年亡くなられた日本大学名誉教授(麻酔学)で、温泉療法にも詳しかった谷津三雄先生が、夏バテ解消法として半身浴のお話を筆者によくしてくださったのが懐かしい。谷津先生は殿様の雰囲気をお持ちの方だった。
     [出典:日経ビジネス、2010/08/02号、堀田 宗路=医学ジャーナリスト]
[イラスト:ヨコイまこ]

戻る