【加齢で増える鼠径ヘルニア】

片側の足のつけ根に、膨らみがあるのに気づいたGさん(64歳)。サウナで友人から「鼠径ヘルニアでは刊と言われ、気になっている。

           卓 足のつけ根部分(鼠径部)には、3層の筋肉と、男性では華丸からの精子が通る精管や血管などが、女性では子宮を支える靭帯などが通っている鼠径管という菅(隙間)がある。

この管の入り口では筋肉に穴が開いている個所が、また、管の後方には筋肉の層が途切れている部分がある。鼠径ヘルニアとは、この筋肉の穴や途切れた部分から、筋肉の内側にある腹膜 を伴って腸がはみ出し、皮膚組織のすぐ下に出て、皮膚を押し上げている状態のことを指す。

俗に言う脱腸のことであり、手で押さえると引っ込む膨らみが鼠径部にできる病気だ。多くの場合、ヘルニア状態に気づいてから、膨らみは徐々に大きくなるものだが、中には何年も変わ らない人もいる。大腿部にまで膨らみが達している人もいれば、はとんど目立たない人もいる。一般的にはあまり痛みを伴わず、違和感や不快感があるくらいがはとんどである。

鼠径管の筋肉の穴や途切れた筋肉の隙間が広いとヘルニアを起こしやすい傾向にあり、女性より男性の方が8倍以上発症しやすい。また、親兄弟にこの病気の人がいれば、かかる確率は高 くなる。親子の外見が遺伝子の影響で似るのと同様に、体の内部組織の位置なども似る傾向にあるためだ。

加齢によって鼠径部の筋肉が弱くなることも原因となり、50歳以降から発症率が高くなる。ならば、腹筋を鍛えればよいと思う人もいるようだが、この病気は筋肉のトレーニングでは予防 できない。筋肉の穴や筋肉のない部分は鍛えようがないからである。

それどころか、筋トレがきっかけで発症することすらある。腹圧が強くかかることは、鼠径ヘルニアが起きる誘因の1つなのだ。日常、重い荷物を持つ仕事や立ちっぱなしの仕事をしてい る人や、スポーツ選手などは、腹圧がかかる機会が多いので、発症しやすい。

「かんとん」が起きると危険
腸がとび出していること自体は、命に別状を来すものではないが、時として膨らみが手で押さえても引っ込まなくなり、硬くなって強い痛みが生じることがある。この状態を「かんとん」 と呼ぶ。かんとんが起きると吐き気が出たり、膨らんだ部位が赤く腫れたりする。とび出た腸がお腹の中へ戻らなくなると、出口で押さえられて血液が流れなくなり、腸管が壊死して穴が開いたり、急性腹膜炎や敗血症を起こしたりする。こうなれば命の危険につながるので、緊急手術が必要になる。

この病気は、大人では自然治癒することはなく、薬は全く無効である。いったん症状が出たなら、出口をふさぐ手術しか治す方法はない。ヘルニアの出口が狭い場合は、。かんとんを起こしやすいので要注意である。未然に防ぐには、手術をするしかない。ただし手術を急ぐ必要があるかどうかは、患者さん自身で判断できないので、症状が出ている場合は、早めに外科を受診すべきだろう。すべての人に急いで手術が必要というわけではなく、中には経過観察で対応できる人もいる。

診断は診察が基本であるが、痛みを伴っている場合は、CT(コンピューター断層撮影装置)やMRI(磁気共鳴画像装置)を撮ってから診断をつけることもある。普段不快であるか外見上の 問題で手術を希望される場合もある。手術自体は、決して難しいものではないが、症例数の多い施設が良い。

当院の場合は、夕方に局所麻酔で手術を行う。術後は歩いて病室に戻れ、翌日午前中には退院できる。他院の場合でも、通常の入院期間は長くても3〜4日だろう。職場復帰の時期も本人次第で、退院してすぐ仕事を始める人もいる。緊急手術になって仕事に支障を来すより、休みを利用して、計画的に手術を受けることをお勧めする。
(談話まとめ:仲尾 匡代=医療ジャーナリスト)

[出典:日経ビジネス、2010/08/02号、沖永 功太=新板橋クリニックヘルニアセンター(東京都板橋区)副院長]
[イラスト:市原すぐる]

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