【痒くない水虫「爪白癬」】

足の爪が白く濁って、変形してきたYさん(43歳)。痛くも痒くもないので、しばらく放 置していたが、気になって皮膚科を受診したところ、爪の水虫「爪白癬」と診断された。

白っぽく濁った爪、厚みが増して変形した爪、もろく崩れやすくなった爪。これらは「爪白癬」という病気にかかった爪の症状である。爪白癬は、水虫菌の原因となる白癬菌によって引き起こされる。ただし、皮膚にできる水虫に見られる痒みや痛みのような症状を伴 うことはない。そのため、Yさんのように放置してしまいがちだが、放っておけば周囲に感染するだけでなく、爪の変形がひどくなり、稀に歩行に支障を来すようなケースもあるので、きちんと治療を受けることが必要である。

もともと水虫にかかっている人や、病人、高齢者など体力が落ちている人は爪白癬になりやすい傾向にある。感染経路として多いのは、プールやスポーツクラブなど、素足で歩くことの多い場所で、菌をもらってくるパターンだ。自分が爪白癬にかかったら、まず家族に感染させないよう気をつけなくてはいけない。感染した爪の中には大量の白癬菌が存在するので、それらをバラまかないためにも、バスマットやスリッパなどの共用は避ける。もちろん、プールやスポーツクラブ、温泉のように不特定の人が出入りする公共の施設についても、治療中は極力利用を避けるなど、配慮すべきである。

完治まで根気 強く治療を継続
一般的な水虫の治療は薬の塗布が中心であるのに対し、爪白癬の場合には服薬による治療が主となる。皮膚のように軟らかい組繊と違って、爪は硬くて丈夫な構造なので、塗り薬の吸収があまりよくないためである。

治療に使われるのは、菌の増殖を抑制し、殺菌作用のある「抗真菌薬」という薬剤で、「ラミシール」と「イトリゾール」の2種類がある。錠剤のラミシールは1回1錠を毎日、約6カ月間飲み続ける。一方、カプセル状のイトリゾールは、1回4錠を1日2回、1週間飲み続け、その後3週間休む。これを3回繰り返す「パルス療法」という変則的な飲み方をする薬になる。

抗真菌薬の服用に際し、気をつけなくてはならないのが、稀に肝機能低下という副作用が表れるという点である。そのため、処方前、または服用中に血液検査を行うのが通例である。処方前の検査で、肝機能に異常が認められれば、抗真菌薬の服用による治療は受けられない。また、ほかの病気の治療で何かしら薬を処方されている場合も、内容を確認する必要があるため正しく医師に申告してもらいたい。

服薬治療を開始してしばらくすると、根元から濁りのない奇麗な爪が少しずつ生えてくる。これは抗真菌薬による治療効果の表れだが、ここで安心して治療をストップしては元も子もない。根元から指の先端まで、健康な爪へと完全に生え替わるまでには、通常半年 から1年ほどかかると言われている。自己判断により、途中で治療をやめてしまうと、白癬菌が爪の中に残ったままになり、すぐに再発することが多い。爪白癬の治療には、根気強さが求められる。

ある程度症状が治まってきたら、再発防止として、塗り薬を併用するとよいだろう。体調を崩すなど、自身の抵抗力が落ちていると感じる時も、再発する可能性があるので、予防策として一時的に塗り薬を使うのも有効だ。

爪白癬自体、決して重い病気ではなく、重要な疾患につながるような心配もない。だが、ひどくなると踵の部分まで菌に侵されて白くなる人もいれば、先に述べたように爪の変形により歩行が困難になる人もいる。

何より、周囲の人に感染させることは避けるべきなので、既に水虫にかかっている人は、素足になる機会の多いこの時期、爪の状態にも十分気を配ってほしい。そして、爪白癬の症状に思い当たるような時には、速やかに皮膚科を受診した方がよいだろう。
(談話まとめ:新家 美佐子=医療ジャーナリスト)

[出典:日経ビジネス、2010/07/12号、増岡 宏昭=日比谷ヒフ科クリニック(東京都千代田区)院長]
[イラスト:市原すぐる]

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