【国民の3人に1人が悩む痔】

事務職のKさん(47蔵)は最近、肛門からの出血や痛みを感じるようになった。座るたぴに痛みが走り、市販薬も効果がない。受診したいが恥ずかしさで躊躇している。

痔は日本国民の3人に1人は経験していると言われている、いわば国民病だ。代表的な痔は大きく分けて3つある。お尻の血流が悪くなって血管の一部がこぶ状になった痔核(いぼ痔)、肛門の皮膚が切れたり裂けたりして傷つく裂肛(切れ痔)、肛門の周囲に感染が起こり化膿してしまう痔瘻(じろう)だ。

痔の原因は様々あるが、排便習慣が大きく影響している。特に便秘によるいきみ過ぎには気をつけなくてはならない。繰り返しいきむことで肛門部の血流がうっ滞し、静脈も怒脹し(膨れ)て周囲の支持組織を破壊しつつ、ずれ出るようになるのが痔核だ。うっ血怒 脹した静脈内では血液が血栓を作り、急に痔核を形成することもある。

アルコールは血管を拡張させるため血流量が増え、肛門のうっ血をひどくして痔核を悪化させることがあるのでほどほどに。ストレスも腸には要注意で、便秘や下痢を起こしやすくなる。下痢便は勢いよく排出されるため、肛門に負担をかけ、痔核や裂肛の原因になる。また、下痢便は肛門のくぼみ(肛門小窩)に入り込みやすく、大腸菌などに感染すると痔瘻を引き起こすことがある。

痔の症状は、肛門からの出血や痛み、腫れなどの違和感が多い。まずは市販薬で様子を見てもいいだろう。ただし、痔の原因となる生活習慣の改善も必要だ。病変部を刺激しやすい辛い食材を避けるなど食生活を見直しながら、食物繊維の多い食材を取り、便秘予防に 努めること。トイレで長くいきまず、お尻は洗浄便座などを利用して清潔に保つ。毎日入浴して下半身の血行を良くすることも大事だ。

そのような生活と市販薬の利用を1カ月ほど続けても症状が改善されない、痛みなどで生活に支障が出るなどといった場合は、肛門科を受診してほしい。肛門からの出血が痔によるものではなく、直腸ガンなど別の病気の可能性もある。また痔であれば、専門医から症 状に合った生活習慣のアドバイスを受けられることも有意義だ。

突然、激痛が襲う痔核に注意
治療の第1は、前出したような生活習慣の見直しをすること。そのうえで、症状が軽ければ薬物療法を行う。炎症や痛みを抑えるならステロイド系の鎮痛剤や、出血にはビスマス系の止血剤などが選択される。座薬・軟膏・内服タイプがあるが、働きに大きな違いは なく、症状によって使い分けられる。

痔の中で最も多いのは痔核で、痔に悩む人の半数に上る。痔核は2種類に分けられ、直腸側にできたものを内痔核、肛門側にできたものを外痔核と呼ぶ。内痔核の場合、薬物療法を続けても痔核からの出血が改善されない場合や、排便時に痔核が肛門から飛び出すほど進行している場合には、外科的療法が必要となる。

特殊な輪ゴムで内痔核を縛って脱落させるなど方法がいくつかあるが、最近はアルタ療法が注目されている。痔核に直接硬化剤を注射して硬化・縮小させる療法で、痛みや出血がはとんどなく、短期間の入院で処置できるなどメリットは大きい。

内痔核がさらに進行し、内痔核だけでなく外痔核を伴って脱出する場合などは結紮(けっさつ)切除術が適応となり、痔核に血液を送っている血管を縛ってから痔核を切り取る処置が施される。1週間くらい入院して、術後1カ月くらいが完治の目安となるだろう。

痔核の中でも、働き盛りのビジネスバーソンに多いものに血栓性痔核がある。根を詰めての作業や、排便時の強いいきみなどがきっかけとなり、ある日突然、座るのもつらいほどの激痛に襲われる。座薬や軟膏などにより数日間で改善されるが、気をつけてはしい。肛門へのいたわりを忘れない生活が痔の一番の予防法であり治療法だ。
(談話まとめ:内藤 綾子=医療ジャーナリスト)

[出典:日経ビジネス、2010/07/05号、佐原 力三郎=社会保険中央総合病院(東京都新宿区)大腸肛門病センター長]
[イラスト:市原すぐる]

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