【食中毒から身を守る】

Hさん(48歳)は、東南アジアでの商談からの帰り、飛行機の中で血便が出たことに驚いた。現地では生水を避けていたが、生野菜のサラダを食べたことが脳裏をよぎった。

Hさんは成田空港から私のクリニックに直行された。すぐに浣腸を行い、大腸内視鏡で観察すると、大腸全体がひどい炎症を起こしていた。血便は感染性腸炎によるものだったが、幸い、抗生物質と整腸剤の内服で治癒し安堵した。便の培養検査では、細菌性腸炎を起こすキヤンピロバクターという細菌が見つかった。これは、食中毒の原因となるものである。

症状が数日後に出る場合も
感染性腸炎は2種類に大別される。腸に細菌が感染して起こる細菌性腸炎と、ウイルスが感染して起こるウイルス性腸炎だ。高温多湿となるこの時期、日本でも注意しなくてはならないのが、細菌性腸炎による食中毒である。

細菌性腸炎の特徴的な症状は、血便、下痢、強い腹痛と発熱など。その代表格は、病原性大腸菌0−157(食肉が主な原因)、サルモネラ菌(食肉や卵)、腸炎ビブリオ菌(魚介類)、キヤンピロバクター(食肉や飲料水、牛乳)などである。これらの細菌では数日の潜伏期間がある。

 色ブドウ球菌は、傷のある手についていた菌などが、調理時に食品に付着し、毒素を作る。従って、おにぎりや寿司などの、素手を使う料理に注意してほしい。やっかいなことにこの菌の作る毒素は熱に強く、毒素が産生されてしまった食品を加熱しても中毒は防止できない。産生された毒素が腸炎を直接起こすので、菌の付着した食品を食べてから数時間で症状が出る。

細菌性腸炎に感染した場合は、クラビットなどの抗生物質とビオフェルミンやミヤBMなどの乳酸菌製剤で、治療を早期に開始したい。乳酸菌製剤は、海外出張の際に飲みながら滞在すると感染予防の一助になる。なお、海外で下痢や血便があった場合は、その症状の強さによっては現地の医療機関で受診するのが望ましい。空港でも申告し、検疫を受ける必要がある。

冬に流行するノロウイルスなどのウイルス性腸炎は、感染力が非常に強く、嘔吐物や下痢物から家族一同が感染してしまうことが多い。これを予防する家庭での消毒方法を紹介しておく。

きれいに洗った500ミリリットル(ml)のペットボトルの半分に水を入れる。そこに、家庭用塩素系漂白剤(次亜塩素酸ナトリウム原液の濃度約5%)を、ペットボトルのキャップ(約5ml)で2杯加える。最後に再び水を加えて全体を500mlとし、ふたをしてよく振って混ぜ合わせる。

なお、この消毒液は、床や衣類などの消毒に有効だが、手などの皮膚には使用できない。また、酸性の洗浄剤などを混ぜると、有毒ガスを発生するので注意してほしい。使用する時は十分な換気も忘れずに。

[出典:日経ビジネス、2010/06/28号、江田 証=江田クリニック院長]

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