【EDと生活習慣病】

会社員のFさん(45歳)は、最近、性交時に十分な勃起が得られなくなっている。原因が分からないのがつらく、人にも相談できずに悩んでいる。

ED(勃起不全)は「性交時に十分な勃起やその維持ができず、満足な性交が行えない状態」と定義されている。EDのタイプには、パートナーの何気ない一言や日常的な疲労からくる心因性ED、血管や神経の障害、外傷などが原因となる器質性ED、服用中の薬剤が原因になる薬剤性EDがある。

EDは男性にとって深刻な問題だが、実際に治療を受けているのは、推定患者1130万人のうち、わずか91万人程度に過ぎない。受診率が低い理由には、高齢を理由にしたあきらめ、受診する勇気がない、受診の際に医師以外のスタッフ(特に女性スタッフ)にEDであることを知られたくないなどの感情があるためと思われる。

しかし、EDは単に性交ができないだけでなく、脳卒中や心筋梗塞といった重大な病気を合併する恐れがある。EDの羅患及び発症は、そうした心血管系疾患の予測因子として注目されるようになってきている。

正常な勃起には、神経と血管が深く関係している。まず性的刺激が脳から神経を介して陰茎に伝わり、陰茎海綿体の動脈が広がり血液が流れ込む。すると、スポンジ状の海綿体が血液を吸い込んで大きく膨らみ、勃起が起こる。

EDの3つのタイプのうち器質性EDでは、動脈硬化が進行していて、海綿体の動脈に十分な血液が流れ込まないことが考えられる。この場合、陰茎動脈のみに動脈硬化が起こっているのではなく、冠動脈や頚動脈(首の動脈)、大腿動脈にも動脈硬化が進行している可能性が高い。

冠動脈の動脈硬化が進行すれば、狭心症や心筋梗塞、頚動脈では脳卒中、大腿動脈では閉塞性動脈硬化症を起こす。陰茎動脈はほかの動脈に比べて細いため、冠動脈硬化症や頚動脈病変に先行して、動脈硬化が進行していると予測できるのである。

受診は学会認定の専門医へ
EDの危険因子(なりやすさ)としては、加齢、喫煙習慣、高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満、鬱病などが挙げられる。これらは心血管系疾患の危険因子と重複するため、EDの治療と生活指導は、心血管系疾患の予防にもなる。

しかし、例えば閉塞性動脈硬化症を疑って循環器科を受診しても、EDについての問診が行われることはほとんどない。ED治療が保険適用され、泌尿器科以外の診療科でEDと心血菅系疾患の関連性が強調されれば、受診率はもっと高くなるはずだ。

EDが心因性の場合、患者とパートナーを中心としたカウンセリングと薬物療法を組み合わせた治療を行う。これらの治療法で容易に治ることもある。薬物療法としては、日本ではパイアグラ、レビトラ、シアリスの3剤が認可され、いずれも作用の仕組みからPDE5阻害薬と呼ばれている。

血管が拡張して十分な血液の流れ込みを起こすためには、血管拡張物質NO(一酸化窒素)の存在が不可欠だ。神経から放出されるNOは勃起を起こし、血管内皮細胞から放出されるNOは勃起を維持すると言われている。しかしNOは、PDE5と呼ばれる酵素に血流を妨げられる。PDE5阻害薬はPDE5の作用を阻害し、NOの生産を促して血管を拡張させる。

最近、個人輸入などで、医師の診察を受けずにED治療薬と称するものを服用するケースが増えているようだ。それらの中にはPDE5阻害薬まがいのものも少なくない。EDを治療するだけでなく、脳卒中や心筋梗塞を未然に防ぐためにも、EDと思われる症状があったら、泌尿器科を受診することをお勧めする。日本性機能学会のホームページ(http:/wwwww.jssm.info/)には学会認定の専門医の氏名と所属が掲載されているので、それらを参考に受診するとよいだろう。
(談話まとめ:田野井 真緒=医学ジャーナリスト)

[出典:日経ビジネス、2010/06/14号、佐々木 春明=昭和大学藤が丘病院(横浜市青葉区)泌尿器科准教授]
[イラスト:市原すぐる]

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