【朝食だけでも無塩に】

会社の健康珍断で高血圧を指摘されたHさん(51歳)。和食中心の食生活だと塩分過多になると医師に言われ、減塩に取り組むことにした。

「塩分の取り過ぎは体に良くない」ということは誰もがご存じだろう。だが、実際にどのくらいの量の塩分を、自分が毎日摂取しているか、正しく認識しているだろうか。

今年4月、厚生労働省は5年ぶりに塩分摂取量基準を改定した。これにより、男性は1日10g未満から9g未満に、女性は8g未満から7.5g未満へと変更された。高血圧や糖尿病など持病のある人は、既に医師や栄養士から何らかの指導を受け、塩分の摂取量に注意していることだろう。

2008年に厚生労働省がまとめた栄養調査によると、日本の成人1日当たりの塩分摂取量の平均値は、2001年の12.1gから10.9gへと年々減少していることが分かっている。しかし、これでは改定前の数値にも追いついてはおらず、我が国はまだまだ減塩に対する意識と実践について、遅れていると言わざるを得ない。

塩分は生命の維持には欠かせない成分であると同時に、必要以上に摂取してしまうと、脳卒中や心臓病をはじめとする循環器疾患を引き起こす危険性がある。また、血圧との関連性も深く、同様に高血圧症を招いたり、動脈硬化を促す可能性も高い。「塩分の摂取過多に注意」と、盛んに言われるのはそのためである。

一般に、「洋食に比べ、和食は体に良い」と言われるが、それは「脂肪量」を基準に考えた時のこと。塩分摂取量から見れば、漬物や味噌汁、魚の干物など塩分が豊富なメニューの多い和食が、必ずしも健康的な食事とは言えない。実際、肥満大国米国人の塩分摂取 量は1日当たり約5gと言われている。もちろん、彼らのような食生活をしていれば、脂肪過多による高脂血症などが問題となってくる。

最近の研究によると、1日当たりの塩分摂取量が1g増えると、胃ガンの発症率が18%も上がるというデータも出ており、今後ますます減塩を推進していくことが大事だと考えられる。

薄味に慣れる工夫を
では、具体的に1日の塩分摂取量を減らすには何をどのように心がけるべきか。塩分量のおおよその目安は、味噌汁1杯で1.5〜2g、たくあんなら2切れで0.8g、梅干しは1個で2g、醤油やソースを1回かけると(常識的な分量で)2gとされている。ご飯に味噌汁、干物に漬物といった、いわゆる旅館の朝ご飯メニューを食べると、1日の塩分摂取基準量の半分以上を取ってしまう計算になる。これにハムや缶詰などの加工食品を加えてしまうと、さらに1食当たりの塩分摂取量はグンと上がる。加工食品には塩分がたっぷり含まれているので、できるだけ控えるのが好ましい。

塩分摂取量を減らすためには、醤油やソースの代わりにレモンやお酢、ダシを使って少しずつ薄味に慣れていく方法も有効だ。また、シソやネギなどの香味野菜や唐辛子、コショウ、マスタードなどの香辛料もうまく使うと減塩できる。味噌汁は具だけを食べるようにしてみたり、漬物は塩抜きをしてから食べるようにしてみるのもいいだろう。

昼は外食、夜は接待、そんな生活を送っているビジネスバーソンにとって、減塩を実践するのはなかなか難しいかもしれない。だが、「まずは1食」と心がけ、朝食だけでも無塩にしてみてはいかがだろうか。

人間の味覚とは不思議なもので、薄味に慣れてしまえば意外と平気になってくる。塩辛さに敏感になれれば、あと1g、2gの塩分摂取量を抑えることは可能だ。塩分摂取量を減らしていけば、血圧も下がってくるし、胃ガンのリスクも低くなる。今回の塩分摂取量基準改定を機に、ぜひとも減塩生活を実践していただきたい。
(談話まとめ:新家 美佐子=医療ジャーナリスト)

[出典:日経ビジネス、2010/06/07号、菅原 正弘=菅原医院(東京都練馬区)院長、医学博士]
[イラスト:市原すぐる]

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