【歩くと気になる踵の痛み】

今年に入ってからジョギングを始めたYさん(45歳)。初めてのハーフマラソン出場後、 足裏の踵(かかと)部分に体重がかかると、痛みを感じるようになった。

足裏の踵部分が痛いと訴えて受診する患者さんによく見られるのが、「足底筋膜炎」という疾患である。耳慣れない病名かもしれないが、決して珍しい病気ではない。マラソンブームの影響のせいか、ここ最近、患者さんの数が増加傾向にある。Yさんも、詳しく検査してみなければ分からないが、足底筋膜炎である可能性は高い。

足底には、骨と筋肉を覆うように、踵を支点に指先に向かって足底筋膜が扇状に広がっている。足底筋膜炎は、その筋腰が何らかの原因で炎症し、痛みが生じる疾患である。多くの人は踵の前方部分に痛みを感じている。

                炎症が起きる原因の1つに、踵骨棘(しようこつきょく)というものがある。加齢によって踵の骨に形成された棘のようなものだが、これが歩くたびに足底夢膜を刺激。負荷が繰り返されることで、筋膜に炎症が起きる。ただし、普通の生活をしている分には、踵骨辣があっても痛みを感じない人もいる。ジョギングなどで足裏に普段より負荷がかかるようになって、徐々に痛みが生じてくるのだ。

また、扁平足の人は、歩く際に足底の内側に体重が集中してかかるため、筋膜への負荷が大きく、足底筋膜炎になりやすい。さらに、足底筋膜自体も加齢により柔軟性が乏しくなり、負荷がかかりやすくなる。すると、踵骨棘がなくても、扁平足でなくても、足底に過度の負荷がかかることで、筋膜が炎症を起こしてしまうこともある。

簡単な装具の使用とストレッチを
過度の負荷といっても個人差があり、同じことをしても負荷になる人とならない人がいる。体重が違えば負荷のかかり方も違うだろう。人によっては、ジョギングを始めたことが負荷になる場合もあるし、内勤から外勤になって、歩くことや立ち仕事が多くなったことなどが原因になる場合もある。

特に男性の場合は、靴底の硬い革靴を履いていることが多いため、足底筋膜に負荷がかかりやすい。こうした環境的要因で、女性よりも男性の方が発症しやすい傾向にある。また、加齢の影響もあり、若い人より中高年層の方が発症しやすい。

痛みの症状を一番よく感じるのは、起床して最初の一歩を踏み出す時という患者さんがほとんど。寝ている間に筋膜がこわばり、硬くなっているせいもあって痛みは強く感じられる。歩き出して筋膜がほぐれてくると、痛みは徐々に治まっていき、日中はあまり感じずに済むようになるのが一般的だ。

診断には、生活環境や症状の表れ方を尋ねる問診、レントゲン検査などが行われる。外傷やリウマチなど、ほかの病気の可能性が排除され、足底筋膜炎と診断されれば、症状に合わせて痛みを和らげる装具を使用する。痛みがひどければ、消炎鎮痛剤が処方されることもある。

装具と言っても大げさなものではなく、靴底に敷くタイプのクッション性のあるものなどで、市販されてもいる。扁平足の人であれば、内側アーチという土踏まずに当てる装具が効果的だ。また、足底筋膜を伸ばすストレッチも痛みを和らげるのに効果があるのでお 勧めしたい。足指を反対側に反らして、足裏全体を伸ばすのだが、朝起きて立ち上がる前に行えば、痛みもかなり軽減される。

足底筋膜炎自体は重篤な病気ではなく、放っておいたからといって重症化して歩けなくなるというわけでもない。ただ、痛む足をかばって歩くなどして膝に負担がかかり、変形性膝関節症や腰痛など、ほかの病気が生じてしまうことがある。

痛みが生じているなら、なるべく早く治療した方がいいことは間違いない。いずれにしても整形外科を受診し、症状に合わせた的確なアドバイスを受け、治療を始めるとよいだろう。
(談話まとめ:仲尾 匡代=医療ジャーナリスト)

[出典:日経ビジネス、2010/05/17号、信岡 史将=目黒整形外科内科(東京都目黒区)院長]
[イラスト:市原すぐる]

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