【原因不明の腹痛に悩んだら】

営業職のAさん(31歳)がお腹の不調を訴えて来院した。大事な会議の前などに緊張すると、決まって腹痛が起こり下痢をしてしまうので、仕事にも支障を来して因っているという。ほかの病院で血液検査や大腸内視鏡検査を受けたものの異常がなく、医師に窮状を 訴えても「病気ではない」「気の持ちようでしょう」と言われたそうだ。

Aさんの話をよく聞き、改めて検査や診察をしていくと、「過敏性腸症候群」と分かった。これは下痢や便秘、腹痛やお腹の張り・ガスの貯留感といった、お腹の不快感が続く病気だ。精神的なストレスや緊張が誘因となって、脳から分泌される神経伝達物質であるセロトニンが過剰となり、胃腸の運動に変調を来すと見られている。

機能障害が原因の病気であるため、]緑検査や内視鏡検査などの画像検査をしても、はっきりとした異常は見つからない特徴がある。欠勤や仕事の能率低下につながることもあり、患者のQOL(生活の質)を著しく損なう。

近年増加している現代病とも言える病気で、患者数は人口の10〜20%に上ると推測されている。特に若い世代のビジネスマンに増えており、入社や新年度の異動などで緊張が続いた5月頃に発症することも多い。

患者数の増加に伴い、病気の認知度も高まっているが、中にはAさんのように、異常がないからといって医師に軽視されるケースもいまだに聞くことがある。

一方、大腸内視鏡検査を受けるのは恥ずかしい、苦痛そうだといって、受診を先送りにする患者もいる。だが、過敏性腸症候群と思われる症状が、大腸ガンや潰瘍によるものであることもままあるため、気になる症状がある時は、必ず検査を受けてほしい。

検査時には、お尻の方に穴の開いたトランクスのようなものを着用するので、下半身があらわになることはない。また、確かに従来の内視鏡挿入法では、肛門に空気を入れながら内視鏡を押し入れていたため、腸が引っ張られてかなりの痛みが生じていた。しかし今では、空気を入れずに、腸の方を引き寄せて縮めながら内視鏡を進めていく挿入法も実施されており、痛みは圧倒的に軽減されている。

薬での治療が効果的
過敏性腸症候群には、非常に良く効く薬が開発されている。1つは、下痢を引き起こすと考えられるセロトニンの働きをブロックし、下痢のはか腹痛などの症状を抑える「イリボー」だ。また、「コロネル」の効果も高い。これは胃で食物と混ざり合い、腸の中で水 分を吸収してゼリー状に膨らむ。便秘の時には便の量を増やすとともに軟らかくして、ちょうど良い硬さの便が出るようにする。下痢の時には水様から泥状の便を形ができる適度な硬さの便にして、排便回数を減らす。

これらの薬で治療をしていくと、多くの患者の症状は改善する。緊張すると腹痛を起こすはか、3つのセルフチェックのポイントが当てはまる人は、過敏性腸症候群かもしれない。一度、信頼できる医師に相談してみるといいだろう。

[出典:日経ビジネス、2010/05/03号、江田 証=江田クリニック院長]

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