【虫歯じやないのに歯が痛む】

歯磨き中に強い痛みを感じたBさん(47歳)。数日で痛みは和らいだが、冷たい飲料を飲んでも痛むため、歯科医院を受診したところ、「知覚過敏産」だと言われた。

冷たいものを飲食した時や歯を磨いている時などに、頭に響くような「キーン」という鋭い痛みが走る「知覚過敏症」。正確には「象牙質知覚過敏症」と言う。感じる痛みの強さには個人差があるが、ほとんどの場合、痛みは一過性のもので持続しないことが特徴の1つだ。

知覚過敏症が起こる第1の原因は、誤った歯の磨き方である。力任せにゴシゴシと歯ブラシを動かしていると、歯茎が下がって歯肉部分が退縮してしまう。歯根部分がむき出しになった状態で、さらに歯ブラシでゴシゴシとこすっていけば、過剰な力がかかって、歯肉の退縮がますます悪化する。

歯の表面は非常に硬いエナメル質に覆われているが、それは歯茎から上の部分に限られる。従って、誤った歯磨きを続けていると、いずれ歯根の軟らかい組織は破壊され、削られていく。実際、歯の根元が楔(くきび)のようにX字形に削られてしまう「楔状欠損」という状態が多く見受けられるのも、知覚過敏症患者の特徴だ。

歯の根元が削られてしまうと象牙質(象牙細管)がむき出しになる。削られて露出した象牙細管に、冷たい水などの刺激が加わると、それが歯の内部の神経にまで到達して、痛みを感じるようになる。

歯磨きの仕方以外に考えられる知覚過敏症発症の原因は、歯周病の進行、歯肉の炎症、噛み合わせの不具合、ストレスなどによる精神的要因など様々ある。原因や進行の度合いによっても、治療法や対処法は異なってくる。

症状に合わせ段階的治療を
知覚過敏症の治療法として一般的なのは、@フツ素などの塗布、Aレーザー照射、B薬剤によるコーティング、Cレジン(歯科医療用プラスチック)の貼付など。いずれも露出してしまった象牙質部分に皮膜を作って刺激を遮断し、痛みを和らげる方法だ。

@〜Bでできた皮膜は薄いため、効果はあまり長く続かない。しかし、これで痛みを抑えている間にも、人間が本来持っている防御反応によって、歯の表面にカルシウムの沈着が進み、神経を保護するようになってくる。そのため、これらの皮膜処置を繰り返し施すことによっても、知覚過敏症状の緩和が期待できる。

Cは、虫歯治療にも似た処置で、象牙質部分の補修を行う。強い衝撃によってレジンが剥がれ落ちない限りは効果が持続する。

歯肉炎や過敏反応が原因で起こる知覚過敏症の場合には、歯肉炎の原因となる口内の汚れを除去するクリーニングや、代替薬剤への変更による治療を併せて行うこともある。また、噛み合わせに問題がある場合には、@〜Cの治療に加えて、歯茎にかかる過剰な力を分散させるため、専用のマウスピースなどを使って治療することもある。

最終的な手段として、神経の除去を選択することもあるが、歯の寿命を縮めてしまうため、できれば避けたい。知覚過敏症の痛みは一過性であることを思えば、まずは歯磨きの仕方の見直しと改善から始めることが治療の第一歩でもある。

最初に述べたように、知覚過敏症は歯や歯肉部分に何か刺激が与えられた時に起こるものである。よって、逆に何の刺激も与えていないのに歯に痛みを感じたり、その痛みが長期にわたって続くような場合には、知覚過敏症ではなく、虫歯や歯髄炎など、ほかの疾患も疑われるので注意が必要だ。

いずれにしても、痛みが気になって日常生活に支障を来すようであれば、一度歯科医院で診察を受けることをお勧めする。正しい歯磨きの仕方を指導してもらい、実践するだけでも、口腔内疾患の予防や改善には大きな効果が期待できる。
(談話まとめ:新家 美佐子=医療ジャーナリスト)

[出典:日経ビジネス、2010/05/03号、大石 論=大石歯科クリニック(さいたま市南区)院長、歯学博士]
[イラスト:市原すぐる]

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