【激しい耳鳴りが続く】

この春から転職したFさん(32鹿)。慣れない環境で緊張が続いているせいか、以前から時々あった耳噴りが激しくなったように感じる。受珍した方がいいだろうか。

耳鳴りは、誰にでも起こり得る症状である。「体外に明らかな音源がないのに、耳や頭の中で感じる書の感覚」と定義されているが、耳鳴りが起こるメカニズムは、まだ解明されていないことも多い。

耳鳴りの感じ方には個人差が大きい。同じように発症したとしても、ほとんど苦にならずにやり過ごせる人が約8割。2剖の人は非常に苦痛を感じる。日本では400万人程度の人が治療を要すると言われている。最近の日常診療でも、頑固で激しい耳鳴りを訴えて受診する患者は後を絶たない。

耳鳴りはほとんどの場合、難聴の背中合わせに起こっている。高音が聞こえなくなる難聴では、「キーン」「シーン」というような高い周波数の耳鳴りが出てくる。低音領域の難聴になると、「ゴー」「ザー」などの低い周波数の耳鳴りが起こる。耳鳴りは、あたかも聞こえなくなった音を補うかのような異常聴覚現象なのだ。

なぜ難聴になると耳鳴りがするのかは、まだ不明な部分もある。原因としては、主に聴神経あるいはそのメカニズムに何らかの障害が起こって感度が悪くなると、その裏腹の現象として耳鳴りが発生すると考えられている。

病気が隠れていることも
耳鳴りには、当人にしか聞こえない「自覚的耳鳴り」と、ほかの人でも聞くことのできる「他覚的耳鳴り」の2種類がある。

他覚的耳鳴りの場合、例えば腫瘍などによって耳の中に多くの血管ができ、その拍動が音源となる「血管性耳鳴り」がある。また、耳の中の鼓膜や音を伝える役割をする耳小骨の筋肉の収縮が振動音として聞こえる「筋性耳鳴り」などもある。他覚的耳鳴りは音源が特定できるので、その原因を治療すれば除去できる。

だが、発生頻度が高いのは、自覚的耳鳴りの方である。この場合、たとえ耳の中にマイクロホンを入れてもほかの人が音として捉えることはできず、当人にしか分からない。そのため、耳鳴りの存在を確認するという、診断上の根本的な確認は行われない。

しかし、難聴の背中合わせに発生するという状況から見て、耳鳴りの裏にある難聴の原因を特定し、診断していくことも1つの方法だ。

一般的に、高音の耳鳴りの原因は耳の奥にあり音を脳へ伝える役割を果たしている内耳に由来する内耳性や、大脳や脳幹などに由来する中枢性の病気によることが多い。内耳炎やメニエール病、突発性難聴、老人性や騒音性難聴のほか、高血圧や糖尿病といった病気が挙げられる。

低音領域の耳鳴りは、メニエール病の初期など低音の難聴が表れる内耳疾患のほか、慢性化膿性中耳炎など鼓膜の内側の空洞部を指す中耳に起因することが多い。

耳鳴りの確実な治療法は現在まだないが、難聴の原因となる病気を治療する、症状の背後にある不安や不眠、疲労、ストレス、鬱傾向を改善するなど要因を1つずつ取り除いていく。また、静か過ぎる環境では、耳鳴りが強調される。そこで、耳鳴りと同じ周波数の 音をBGMなどで流す「順応療法」も10年程度前から取り入れられている。

治療に際しては、患者の耳鳴りに対する不安や緊張、精神状態や自律神経反応などにも配慮が必要だ。それを欠くと、患者の苦痛を助長したり、複数の医療機関を渡り歩く“ドクターショッピング患者”を作る結果にもなりかねない。広い意味での心理的アプローチが必要なケースもある。

なお、通勤電車などでイヤホンをして音楽などを聞いている人も多いが、長時間、大きな書で聞くのは避けること。耳鳴りが急に強くなった時は、直ちに耳鼻科を受診してほしい。
(談話まとめ:杉元 順子:医療ジャーナリスト)

[出典:日経ビジネス、2010/04/26号、小川 郁=慶応義塾大学医学部(東甜新宿区)耳鼻咽喉科教授]
[イラスト:市原すぐる]

戻る