【現代生活に増える病】

仕事で不規則な生活が続くHさん(45歳)。最近体がだるく、しばしば動悸がするため受診したところ、自律神経失調産と言われた。精神的な疾患だろうかと気になる。

自律神経は、内臓を効率よく動かしたり、血流や代謝などを調節する神経で、「交感神経」と「副交感神経」の2種類からなる。交感神経は主にアクセルの役目を果たし、副交感神経はブレーキの役目を果たす。お互いが制御し合って均衡を保ち、体の機能を維持して いる。「自律神経失調症」は、この2つの神経の働きのバランスが崩れて起こる病気だ。

日本心身医学会では、自律神経失調症を「種々の自律神経の不定愁訴を有し、しかも臨床検査では器質的病変が認められず、かつ顕著な精神障害のないもの」と定義している。しかし、これはあくまで暫定的なもの。現状ではしっかりした定義がないのが実情だ。

症状としては、動悸やめまい、全身の倦怠感、頭痛といった不定愁訴が多く、これらは鬱の場合と似た症状でもある。また鬱状態で自律神経失調症が起こることがあるため、「原因がよく分からない不定愁訴」を訴える場合に自律神経失調症とされ、精神科や神経内科で治療することが多い。

だが、自律神経は精神と臓器の連絡路であり、各臓器を効率よく動かすための“電線”のような役割を果たすもの。バランスが失われると内臓への負担が大きくなる。その意味では、精神的な疾患というよりも、むしろ内臓の病変であると考えた方がいい。

追われる生活が失調を引き起こす
自律神経失調症の原因は様々だが、一番の要因はストレスだ。ストレスが高い状態では、常にアクセル役である交感神経が優位に働く。すると、例えば血圧や心指数は上昇し、血管は収縮する。一方、血糖を低下させるホルモンであるインスリンの分泌は低下。肝臓ではグリコーゲンを分解してブドウ糖を作り出すため、血糖は上昇する。これらは動脈硬化の原因にもなる。

本来、就寝中は副交感神経が優位になり、こうした体の状態をリセットする。だが、交感神経が優位な状態が続くとリセットできずに、恒常的に内臓が休めなくなるため、種々の不調が表れる。自律神経失調症で倦怠感が強くいくら眠っても疲れが取れないと感じるのはそのためだと言える。

ストレスの原因は、仕事や人間関係ばかりではない。日々時間に追われたり、いつでも携帯電話やパソコンでの対応を求められるような現代的な生活では常に緊張状態を強いられるため、知らず知らずのうちにストレスになっていることが少なくない。また、夜型や不規則な生活、運動不足、無理なダイエツトなどの生活習慣も自律神経の失調の要因になる。

そのため、自律神経失調症の治療では、生活習慣の改善が最も大切だ。まずは、朝型の規則正しい生活にしてほしい。太陽の光を浴びたり、朝食を取ることで体内時計がリセットされて自律神経のオン、オフの切り替えがスムーズになる。また、散歩などの軽めの運動も有効だ。体を芯から温める効果があり、それが副交感神経の働きを優位にする。ただし、散歩を「しなければ」と考えるのは逆効果。それがストレスになる。無理せず、ゆっくりと余裕を持ったペースで歩くといい。

病院での治療では、首のつけ根あたりにある交感神経が集まった星状神経節に遠赤外線を当てて、体を温める温熱療法が効果的だ。1回10分ほどの治療だが、私のクリニックでは週に2回、計10回の実施で、7割の人の症状が改善した。一方、治療中止後はそのうちの半数の人で症状が再発するので、その場合には継続治療が必要だ。週2回の通院が難しい人は、ゆっくりと入浴したり、足浴で体を温めるだけでも効果がある。

精神症状が強い場合には、抗不安薬が有効なケースもある。医師に相談してみるといいだろう。
(談話まとめ:武田 京子=医療ジャーナリスト)

[出典:日経ビジネス、2010/04/05号、渡辺 正樹=渡辺クリニック(名古屋市中区)院長]
[イラスト:市原すぐる]

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