【アメーバが病原体の角膜炎】

ソフトコンタクトレンズを便用しているMさん(41歳)。強い日の痛みと充血を感じ、眼科 を受珍したところ、「アカントアメーバ角膜炎」と珍斬された。

アカントアメーバ角膜炎とは、アメーバの一種である「アカントアメーバ」が日の角膜に感染して炎症を起こす病気だ。1980年代初頭に、私が学会で初めて国内に紹介した。その後間もなく、日本でも患者が発見されて以来、年々その患者数は増え続けている。

アカントアメーバは、湿地や水中などの淡水域やそのほか多くの場所に生息する。これが、角膜の神経内に入り込んで、2〜3日のうちに動き回るようになる。1週間もしないうちに目が赤くなったり、強い痛みを感じたり、涙がたくさん出たりするなどの症状が表れてくるのが、アカントアメーバ角膜炎だ。

アメーバ自体、感染率はそう高くない病原体ではあるが、このアカントアメーバ角膜炎は、角膜炎の中で最も重症であることを留意しておきたい。

アカントアメーバ角膜炎の発症率が年々上がっているのは、このところソフトコンタクトレンズの使用率が増加しているからだ。ソフトコンタクトレンズは、レンズの構造上、汚れや病原体が付着しやすいことが一因に挙げられる。

しかしながら、使用上の注意を守り、常に清潔な状態で装着していれば、そう簡単にアカントアメーバ角膜炎に感染するようなことはない。問題は、十分な洗浄を行わずに汚れたレンズや保存ケースを使い続けている使用者が非常に増えているという点である。

以前は煮沸消毒を要するなど、コンタクトレンズの取り扱いには面倒な点が多かった。だが、使用者が増えるにつれ、手軽にケアができる洗浄消毒剤が開発されて、より簡単な手入れでの使用が可能になった。これが逆に、「その程度のケアでも十分」という誤った 認識をコンタクトレンズ使用者に植えつけてしまったという面もある。

アカントアメーバは、汚れたレンズや保存ケースに付着し、細菌をエサにして増殖する。そのアメーバで汚染されたコンタクトレンズを装着すると角膜の小さな傷などから角膜神経へとアメーバが入り込んでしまう。

治療・根治には長期を要する
感染すると強い目の痛みを伴い、白目も真っ赤に充血する。視力の低下も少しずつ進行し、手遅れになると失明する危険性もある。また、糖尿病やリウマチなど基礎疾患のある患者の場合は、重症化することもあるので、注意が必要である。

診断・治療に関しては、より専門性の高い眼科医の下で行うことをお勧めする。アカントアメーバ角膜炎には特効薬がないため、治療・根治にも困難が伴うからだ。

治療には、@感染した角膜をこすって病原体を取り去る、Aクロルへキシジンなどを含む消毒薬や抗真菌剤を点眼別にして処方、B内服薬、点滴注射での治療、の3者併用が主流である。だが、重症化すれば、それだけ治療にも長い時間を要することになる。単なる目の痛みや充血だと思って軽視していると、後で取り返しのつかないことになるケースもある。強い目の痛みや充血を感じたら、決して自己判断に頼らず、速やかに眼科医の診察を受けることが肝要である。

予防には、とにかくコンタクトレンズのケア方法を守り、レンズを清潔に保つこと。汚れたレンズケースを早めに取り換えることもポイントだ。また、可能であれば、できるだけ眼鏡も併用するなど、目や角膜への負担を軽減することも大事である。

アカントアメーバ角膜炎の発症者は、今後も増えると推測される。手軽さ・便利さに安易に飛びつくのではなく、正しい知識を踏まえたうえで、しっかりとしたケアを行っていただきたい。それさえ守っていれば、発症のリスクは抑えられるのだ。
(談話まとめ:新家 美佐子=医療ジャーナリスト)

[出典:日経ビジネス、2010/03/22号、宮永 嘉隆=西葛西・井上眼科病院(東京都江戸川区)院長、東京女子医科大学名誉教授]
[イラスト:市原すぐる]

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