【心を「神薬」で潤す】

「死なない人はどんなことがあっても死なない」。それが1945(昭和20)年、台湾北部に展開していた日本軍の工兵隊長、紀野一義さんの実感だった。

終戦間際、台北には米軍が落としていった不発弾がゴロゴロとしていた。紀野さんは、人々のために不発弾から信菅を取り外して、1発ずつ処理して歩いた。スパナに鎖を縮めて、信管をぐいぐいと回す。速すぎると爆発する。ゆっくりしていると恐ろしくなって回せなくなる。一触即発。いつ爆発してもおかしくなかった。こうして処理した爆弾は1750発。紀野さんは「1750回、爆弾と命のやり取りをしたが、一度も死ななかった」と言う。

紀野さんは後に高名な仏教学者・宗教家として100冊以上の本を書くが、どの本も「肯定、肯定、絶対肯定!」という力と明るさに満ちている。

筆者は今年1月、池上本門寺(東京都大田区)での紀野さんの講演会で、この戦争体験を聞くことができた。87歳になられた紀野さんは、冒頭の言葉を何度も口にされ、そのたびに臓腑をえぐられるような衝撃を覚えた。

講演会の終了後、元カネボウ化粧品取締役の近藤(旧姓古島)町子さんのことが思い出された。近藤さんは70 歳を過ぎた頃にガンが見つかり、手術を受けたが、それでも全身にガンが26カ所も残っていた。驚くべきは、もはや打つ手がなくなっていたそれらのガンが退院後、何と2カ月ですべて消えたこと。

医者は驚嘆した。いったい、どうやってガンを消し去ったのか。近藤さんは筆者に言った。「絶対、生きてやる!という強い信念が私を生かしたのです」。その言葉が、紀野さんの言葉に重なった。

どこでもできるイメージ療法
免疫の解明が進み、それが心の影響を受けやすいことが分かってきた。精神力の強さは困難だけではなく、病気をも跳ね返す力を秘めている。

例えば紀野さんは、簡単に精神力を高める方法として、江戸中期の臨済宗の僧侶白隠が行った「軟酥(なんそ)の法」を勧めている。白隠の著書からそのやり方を紹介しよう。「各種の神薬仙薬が混ぜ合わされた丸薬が頭の上に載っていると考える。その香りの清らかな丸薬がバターのように次第に体温で溶けて流れ始め、丸い頭の全体を潤し、さらにひたひたと潤しながら下ってきて、両肩、両肘、両乳、胸の中、肺臓、肝臓、腸、胃、脊椎とゆっくりと下へ流れていくと想像する。この時、全身の滞りや、胸の中の積もれる思い、苦痛など も下へ流れるように下りていき、足の裏へたまっていく。この様子は、世の中の良医が様々な薬で煎じた湯を作り、その中でへソから下の下半身を温めているようなもの。常にこの観想を行って習熟すれば、いかなる病でも治り、どのような事業や学問にも効験が得られる」。

自分に暗示をかける、一種のイメージ療法である。目を閉じて、ゆっくりと息を吐きながら行うといいだろう。慣れれば、いつでもどこでもできる。

[出典:日経ビジネス、2010/03/15号、堀田 宗路=医学ジャーナリスト]
[イラスト:ヨコイまこ]

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