【手の使い過ぎによる痺れ】

残業続きでパソコンのキーボードを叩く時間が増えたからか、手首や腕に痺れを感じるようになったHさん(32歳)。しばらくすれば治るだろうか。

手や足の痺れは、日常、誰しも経験し得ることだ。しかし、メカニズムや原因を探ると奥が深く、決して侮れない症状である。

痺れは運動障害と知覚(感覚)障害の2つに大別される。運動障害は、運動神経障害による筋力低下と、筋肉、関節、靭帯などに障害があるために生じる運動麻痺とに分けられる。

知覚障害には、知覚が鈍ったり消失したりする知覚低下と、その逆の知覚過敏がある。さらに異常知覚として、ピリピリする、ジンジンする、締めつけられる感じがするといった感覚から、何だか嫌な感じがするなど他人に説明しがたい感覚がすることも多い。

また、外から触れる刺激を冷たく感じたり、冷たい刺激を温かく感じたり痛みに感じたりすることもある。こうした触覚や痛覚の異常がある時、ある値を超えると、痺れというより痛みを感じる場合がある。痺れや痛みを単独で感じることもあれば、旅報が合わさったように感じることもある。

体が受け止める外部からの刺激の度合いや性質などは、人によって様々に表現されるので、十分な問診と観察が必要だ。

痺れの原因疾患も多様で、整形外科や神経内科なども領域になる。最も多く見られるのは、老化に伴う運動器官の変形や変性からくる絞扼(こうやく)性(圧迫による)神経障害や虚血性神経障害によるものだ。そのほか整形外科領域では、加齢による脊柱の変形、脊柱管狭窄症、椎間板ヘルニア、後縦靭帯骨化症、頚部外傷などが挙げられる。神経内科領域では、変形性頚椎症、頚部脊髄根神経症、坐骨神経痛、三叉神経痛などが見られる。

偏ったた食生活も要因に
動脈硬化や血栓による血流障害が要因となる糖尿病性ニューロパチーという病気では、末梢神経が障害される前兆として痺れが表れるので要注意だ。カップラーメンやインスタント食品ばかり食べている若者や飲酒量の多い人には、ビタミン(特にB群)の不足による感覚異常も多い。

診断には、痺れという兆候の背後に隠れているかもしれない、様々な病気の可能性を考えることが重要だ。このため、十分な問診のほかに、知覚異常の有無を見る感覚テスト、運動機能テスト、腱反射テストなどの検査も実施し、神経学的診察を行う。さらに、必要に応じて]線検査やMRI(磁気共鳴画像装置)などでも確認する。

原因疾患で最も多い絞扼性神経障害について詳しく見ると、その6剖ほどは手根管症候群(正中神経麻痺)、次いう で肘部(ちゅうぶ)管症候群、橈骨(とうこつ)神経麻痺が挙げられる。

手根管症候群は、手のひら側の手首のあたりが圧迫されることで起きる。症状は、手のひらの親指側、親指と薬指にかけての痺れや、ピリピリ・ヒリヒリといった痛みが、夜間や起床時に強く出る。手指の使い過ぎで発症するが、中年女性に多いことからホルモンの影響とも言われている。最近ではHさんのように、パソコンのキーボードやマウスの操作を連続して過度に行うことでの発症も増えている。

肘部管症候群は、尺骨神経が肘関節部分で圧迫されると起こる。小指と薬指が痺れ、変形もする。

橈骨神経麻痺は、手首や指のつけ根を伸ばす筋肉が働かなくなるもので、上腕の槙骨神経の圧迫が原因となる。男性が女性に腕枕をした時によく見られることから、“ハネムーン麻痺”などとも呼ばれている。

これらの場合は、原因が分かればそれを除去し、ビタミンB群の摂取で神経修復を促進すれば改善する。

いずれにせよ、痺れという神経系が発するSOSサインを甘く見ず、整形外科や神経内科を受診してみてほしい。
(談話まとめ:杉元 順子=医療ジャーナリスト)

[出典:日経ビジネス、2010/02/22号、神津 仁=神津内科クリニック(東京都世田谷区)院長]
[イラスト:市原 すぐる]

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