【人づき合いが苦手なだけ?】

人と話すのが苦手なFさん(32歳)。職場のつき合いを避けていたら、「人間嫌い」「一匹狼」などと思われるようになった。本当は飲み会にも参加したいのだが…。

対人関係で悩んでいる人の中には、「社交不安障害」と呼ばれる病気の場合がある。1994年の米国精神医学会の診断基準(DSM−W)に「Social Anxiety Disorder(SAD)」が記載され、世界的に注目されるようになった。日本では社会不安障害と訳されていたが、2008年の日本精神神経学会で社交不安障害と改称された。

SADは人前で何かをしたり、人と接したりする時に、過度に緊張して手や声の震え、動悸、発汗、顔の紅潮などが起こる。症状には個人差があるが、日常生活に支障を来すかどうかがポイントになる。

決して人間嫌いなわけではなく、本当は人と楽しく接したいのだが、うまくできない。自分の言動が他人からどう見られているか気になり、人前で話したり文字を書いたりすることを回避してしまう。また、匿名性が担保される時、例えば数百人の中の1人という場合などは平気でも、少人数では食事もできないという患者さんもいる。日本では、軽症例も含めれば100人中3〜5人程度いると考えられている。

従来、このような症状は「性格的なもの」「人づき合いが苦手なタイプ」といった捉え方をされ、治療の対象とは 考えられていなかった。ところが、大規模疫学調査で予想をはるかに上回る有病率が確認されてから、薬物療法の 有効性を示すエビデンス(治療の科学的根拠)が示されるようになった。加えて心理療法が有効であることが分か ってから専門家の認知度が高まり、治療を受ける患者さんが増えた。

10代後半から20〜30代に多いのは、社会人になってから多くの対人関係を経験するようになり、症状が顕在化するためと考えられる。だが、私が診療した患者さんには、20年間もSADを隠し続けて、不安や恐怖が出現する場面を回避しながら働いてきた50代の男性もいる。

極度の不安は病院へ
SADの本態(中核症状)は「不安」であり、脳の神経伝達物質の1つであるセロトニンのバランスが崩れることが主な原因とされている。

体の中では神経細胞から神経伝達物質が放出されて、ほかの神経細胞がそれを受け取って情報伝達が行われている。情報伝達物質の一部は情報を渡し終えると、元の神経細胞に再び取り込まれる。鬱病の患者さんでは、この再取り込みが過剰になり、その分情報伝達がスムーズにできないと言われている。SADでも同じようなことが起こっている可能性がある。

SSRIはセロトニンの再取り込みを調整する薬で、この薬を使うと50〜60%の患者さんが症状の改善を自覚する。前述の50代の患者さんは、SSRIを服用するようになってから「妻とレストランで食事をするのが楽しくなった」と話している。劇的に症状が改善するわけではないが、今まで治療法がなかったことを思えば、患者さんにとって大きな福音と言えるだろう。

SSRIは根本治療に近い作用を発揮する。だが、使い始めてすぐには効果が表れない。そこで、服用してすぐに効果が表れる抗不安薬を併用する。抗不安薬は緊張や不安が増す場面の前に服用すると、症状を和らげてくれる。

セルフチェック法として、以下の4項目すべての答えが「イエス」の場合、SADの可能性が高い。@この1カ月に 人から見られたり、注目されたりして恐怖や戸惑いを感じたことがある、Aその恐怖は自分では普通ではないと思 える、Bその状況は、避けたり我慢したりしなければならないはどである、Cその恐怖により社会生活が妨げられ たり、著しい苦痛を感じる。

しかし、これだけではSADと判断することはできない。診断は必ず医療機関で受けることが大切だ。
(談話まとめ:田野井 真緒=医学ジャーナリスト)

[出典:日経ビジネス、2010/02/15号、三木 治=三木内科クリニック(東京都千代田区)院長]
[イラスト:市原すぐる]

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