【血管が裂ける大動脈解離】

突然、胸と背中に今まで経験したことのない激痛を覚え、気を失ってしまったOさん(62歳)。大動脈解離と診断され、緊急手術で一命を取り留めた。

大動脈の血管は、内側から内膜、中膜、外膜と、3層構造になっている。血液に面している内膜と筋肉の層である中膜が動脈硬化などで脆弱化し、何らかの原因で圧力がかかって、一部破損することがある。この時に、破損した部位から血液が中膜にも流れ込み、中膜が破損して血液のたままった隙間ができる。それが広がり、内膜と外膜がはがれてしまった状態を、大動脈解離と言う。

         、 大動脈解離は、大動脈のどの部位が解離を起こしているかで、重症度や手術をするかしないかなどの治療方針が 変わる。心臓に近い部位で解離が起きると、心臓機能の著しい低下が生じ、Oさんのように命の危険につながる。

大動脈は、心臓から出ていったん上に向かい、逆Uの字で弓なりに曲がって体の下部に向かう。上に向かっている部分を上行大動脈、弓なりに曲がっている部分を弓部大動脈と言い、下に向かっている部分は胸部下行大動脈、腹部大動脈と言う。

上行大動脈で解離が起こっている場合は、スタンフォード分類A型と呼ばれる。急性心筋梗塞症など命に関わる合併症を起こすことが多いため、ほとんどが即手術とまる。放置すると発症から丸1日で約半分の人が命を落とすことになるが、手術をすれば8割以上の人が助かる。手術では、解離が起きている血管で、最も生命の危機に関わる部位を人工血管に取り換える。

上行大動脈に解離がなく、ほかの場所で解離している場合は、スタンフオード分類B壁と呼ばれ、基本的には内科的治療を行う。解離の範囲を広げないために、血圧を下げることが必須となり、降圧剤や鎮静剤、鎮痛剤などが処方され、絶対安静が保たれる。ただし、解離できた解離腔が破裂、または破裂しそうになっている場合などには、やはり手術が必要となる。

生活習慣病が危険因子に
この病気の症状は、突然起きる激痛で始まる。その多くは胸痛であるが、解離が起きている部位により、背中だったり腰だったり、時には腹痛が起きることもある。時間が経過するこつれ、痛みの強い場所が移動していくケース もある。また、血流が滞り、手足のしびれや痛み、意識障害が起きることもある。

診察では、どういったタイプの痛みなのか、もともと高血圧だったかなどを問診する。解離を疑えば、すぐにCT(コンピューター断層撮影装置)で確認することにより診断がつく。

解離を起こす一番の要因は、血管の中内膜が脆くなる動脈硬化と高血圧である。動脈硬化に大きく関わっている のが、高脂血症や高コレステロール血症といった脂質異常症や、高血圧症などの生活習慣病だ。また、喫煙や加齢 によっても動脈は硬化しやすくなる。

そのため、この病気の発症率は50歳を過ぎたあたりから徐々に上がり、70代ピークとなる。女性は、女性ホルモンの影響で動脈硬化を起こしにくいため、男性よりも発症率が低い。しかし、閉経後は徐々にその数値が増ていく。

中には、20〜30代で発症する人もいるが、その場合は、結合組練疾患といった遺伝的体質が原因となる。若くても、家族に大動脈瘤破裂や解離を起こした人がいる場合、1度検査を受けて確認しておくとよいだろう。

大動脈解離の発症率を下げるためには、普段から高血圧にならないような生活習慣を心がけたい。動脈硬化は解 離が起きやすくなる最大の要因だが、自覚症状がないため、どうしても軽んじてしまいがちだ。少なくとも、メタ ボリック(内臓脂肪)症候群と指摘されている人は、生活改善を試み、喫煙者者は禁煙するのが望ましい。
(談話まとめ:仲尾 匡代=医学ジャーナリスト)

[出典:日経ビジネス、2008/02/08号、師田 哲郎=東京大学医学部附属病院(東京都文京区)心臓外科講師]

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