【“各駅停車”症候群】

朝の通勤電車で腹痛を起こし、途中下車してトイレに駆け込むことがあるFさん(42歳)。会社に遅刻してしまうこともある。受診すると「過敏性腸症候群」と診断された。

過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome=IBS)は、簡単に言えばストレスなどの脳への刺激が、胃腸に表れる病気。遺伝的要素と生活環境が影響すると言われている現代病だ。

Fさんのように、通勤電車を途中下車してしまうようなケースでは、急にトイレに行きたくなることを恐れ、駅の間隔が長い急行電卓や快速電車に乗れなくなることがある。そのため、“各駅停車”症候群と呼んだりもする。

以前は「気のせい」などと言われ、患者が苦しむケースも多かった。しかし今では、適切な治療をすれば確実に改善できるようになっている。

このIBSには、ほかの胃腸障害と大きく異なる点がある。症状の原因となる潰瘍やガンなどの病気や異常がないにもかかわらず、腹部の痛みや張り、お腹がゴロゴロ鳴るといった不快感を慢性的に繰り返す。また、症状に性差があるのも特徴だ。男性では下痢が、女性では便秘が多く起こる。

一般的に大腸は、ストレスの影響を受けやすい。精神的、肉体的なストレスにより、大腸が過敏になったり、異常に収縮したりする。脳がストレスを受けると、脳の神経伝達物質の1つであるセロトニンが腸管内の神経組繊で増加して、腸管を痙攣させることが原因の1つと考えられている。便の排出が早くなると下痢を起こし、遅くなると便秘を起こす。

症状を医師に詳しく伝える
IBSは、20代と60〜70代に発症のピークがあるが、若年層では小学校高学年から発症が見られ、管理職世代にも増えている。生死に関わる病気ではないため、あまり重視されてこなかったが、米国では患者が非常に多く、日本でも成人の約10〜15%がIBSを発症しているという調査結果がある。今や労働生産性や医療経済の面からも、軽視できなくなっている。

しかし、医療機関を受診する人は、IBSと自覚している人でも2〜3割に過ぎない。自覚していない隠れ患者も多いはずだ。IBS患者で深刻な症状を抱えながらも、原因が分からず医療機関を渡り歩くケースも少なくない。

診察時には、問診で医師に症状を詳しく伝えることが大切だ。医師の側にも、患者の話をよく聞き、病気を正確に把握しようとする姿勢が欲しい。IBS患者は精神的な影響を受けやすいため、患者と医師の信頼関係を築くことが重要になる。患者の中には、「医師が何気なく言った『大したことはないですよ』という言葉に、突き放された思いがした」と話す人もいた。

血液や便潜血検査、腹部]線のはか、場合によっては内視鏡検査を行い、別の病気が隠れていないかを確認する。3カ月ほどの経過観察で、別の病気の可能性は確実に除外できるだろう。

治療では、薬物療法と簡易な心理療法が柱となる。これまでIBSの薬剤治療は、主に便の水分量を調節する方法が取られてきた。しかし最近では、セロトニンが腸を過敏にするのをブロックし、下痢の症状を抑えるイリボー(ラモセトロン塩酸塩)という新しい薬が使用されるようになっている。適用は下痢型の男性患者に限られるが、これにより、患者の症状改善の満足度やQOL(生活の質)が高まってきている。便秘に対する新しい治療薬も、開発が進んでいるようだ。

最後に日常生活では、以下の「快便生活5カ条」を心がけるといいだろう。

@食事は1日3回、規則正しく取る。
Aできれば午前0時前には就寝して、早起きを習慣にする。
B1日20〜30分は歩く。
C完璧主義ではなく、“いいかげん”の75点主義になる。
D突然の下痢や便秘、腹部の不快な症状が続く場合は、信頼するかかりつけ医に相談する。

(談話まとめ:杉元 順子=医療ジャーナリスト)

[出典:日経ビジネス、2010/01/18号、鳥居 明=鳥居内科クリニック(東京都世田谷区)院長]

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