【旅行中のケガに備える】

リフレッシュ休暇でハワイ旅行を控えるKさん(58歳)。距離は短いが、ハイキングの予定もある。普段はデスクワークで運動をしていないので、ケガをしないか心配だ。

旅行中は普段より活動的になり、めったにしないハイキングをしたり、慣れない場所で出歩くことも多いだろう。転んだり、物にぶつかったりして、小さなすり傷や切り傷を負うことが少なくない。

ハワイなどのリゾート地への旅行者で多いケガは、シュノーケリングをしていてサンゴ礁や岩で足を切る、ハイキング中に転んですり傷や切り傷を負う、ゴルフカートの操作を誤って転倒し打撲をするといったものだ。

ケガをしてしまったら、大切なのは、まず出血をできるだけ少なく抑えて、細菌への感染を防ぐこと。すり傷や小さな切り傷は、自然に血が止まることが多いが、なかなか止まらない場合には、清潔なガーゼやハンカチで傷口を圧迫して止血する。

その後、きれいな流水で、傷口に入った砂や石、泥などの異物を、10分くらいかけて十分に洗い流す。もし持っていたら、抗生物質入りのクリームを塗っておくと、細菌への感染予防につながる。

水がない場所へキャンプなどに行く時には、あらかじめ現地の薬局で、消毒用の過酸化水素水(Hydrogen Peroxide Solution)を買って持参するのも良い方法だ。

切り傷・刺し傷は破傷風リスク
特に野外で負ったすり傷や切り傷の場合、米国では、治療に当たり5年以内に破傷風の予防接種を受けているかどうかを確認する。受けていない場合は、追加免疫の注射を打つことで、発症予防を期待する。

破傷風の原因となる破傷風菌は、土や家畜の糞の中にいて、傷を通して感染することがある。破傷風菌は空気を嫌う嫌気性菌なので、特に釘など先の尖った細長いものによる深い刺し傷の場合には、傷口がすぐに閉じてしまうので、発症リスクが大きい。海の中でケガをしても、その後砂浜を歩いたりするわけだから、リスクがないとは言えない。

破傷風菌が体に入ると、紳経を侵し、アゴがこわばって開けられなくなったり、痙攣を起こしたりする。感染率は非常に低いのだが、死亡率は約50%と高く、死に至らなくても後遺症になることが多い。

一方で、定期的に予防接種を受けることで、ほぼ100%予防することができる。幼児期には、定期健診でだいたい予防接種を受けているだろう。だが、大人になってからも、10年に1度は追如接種をすることが大切だ。

日本の国立感染症研究所によると、2008年の調査では抗破傷風毒素抗体の保有率は、1〜4歳では99%なのに対し、40代後半から50代後半では約25%、60代以上では約11%と低くなっている。実際、2004〜08年に日本で報告された患者546人のうち、94%が40歳以上というのも、こうした背景によるものだろう。

そしてもう1つ、世界保健機関(WHO)の調べによると、日本の破傷風患者の報告数は、2008年で123人と、ほかの先進国と比較してかなり多いのが目を引く。例えば、フランスは8人、英国では5人、米国は0人だった。ちなみに発展途上国では、インドは3714人、中国は1786人、フィリピンは813人、ベトナムは221人である。

ところで、旅行中のケガで最も問題なのは「保険に入っていないから、高額な医療費は払えない」といった金銭的な理由で、医師の診察を受けないことだ。ケガをした後、すぐに手当てをすれば簡単に治療できるものも、受診を先延ばしにすることで傷口が化膿して治療が難しくなり、治療費もかさんでしまったというケースがよくある。そうした事態を防ぐためには、旅行の前に、海外でも通用する医療保険に加入しておくのが賢明だ。
(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

[出典:日経ビジネス、2010/01/11号、プライアン・ウイリアムズ=ハマクア・ヘルス・センター(米国ハワイ)医療部長]

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