【寒い時期の入浴法】

深夜に帰宅し、冷えた体を温めようと熱い風呂に入ったDさん(49歳)。湯船で頭がボーツとして、軽いめまいを起こした。妻に声をかけられなければ、どうなっていたか。

真冬の外気にさらされた体を温かい湯に沈める。ビジネスバーソンにとって、風呂の時間はリラックスできるひと時だろう。最近では、シャワーで済ませる人も多いかもしれない。しかし入浴は、体を洗うだけでなく、保温、血流改善、疲労回復ができる。体が温まり末梢血管が開くと、体温が下がり、深い眠りに就くこともできる。忙しい人はど、入浴する方が望ましい。

ところで、寒い時期に話題になるのが入浴事故だ。入浴中の死亡事故は年間約1万4000人に上り、交通事故死よりも多い。特に1月は1年のうちで件数が最も高く、11〜2月にかけては注 意しなくてはいけない。

入浴事故は、心筋梗塞などの病気と、打撲などの外傷に大別される。外傷件数の3倍くらい、病気の方が多発しているのが現状だ。冬季にこのような事故が増えるのは、急な温度変化と水圧変化などにより、血圧が急激に変動することが原因の1つとなっている。

暖かい部屋から寒い脱衣所へ行って服を脱げば、血管が縮まり血圧が上がる。そのまま浴槽の熱い湯に首までつかると、さらに温熱や水圧で心臓への負担が大きくなり、血圧が上昇する。体が温まると血圧は下降し、風呂から上がると水圧もなくなってさらに下がる。このように血圧の振幅の差が激しいため、体への負担が増していくのだ。

それだけではなく、体は様々な刺激を受けている。湿度、浮力などの刺激はもちろん、風呂の熱さで交感神経が優位になる一方で、リラックスしてくれば副交感神経が優位へと、自律神経も激しく変化する。風呂に長くつかると約80キロカロリー消費すると言われ、疲れやすくもなる。同時に、体温が上がれば発汗して軽い脱水状態になり、血液が濃くなる。そのため、血液の粘調度が高まって血流が悪くなり、血栓もできやすくなると考えられる。

飲食後や空腹時の入浴は避ける
このような、物理的刺激と生体反応が同時に起こると、体はそれらに対して恒常性を保とうとする。それがうまくいかないと、起こりやすいのが脳血管や心血菅系の障害だ。血圧が急上昇して血管に負荷がかかったり、血液の粘調度が増して血流が滞り、血管が詰まったりすると、筋梗塞や脳梗塞になりやすい。脳血管が破裂すれば、脳出血を引き起こすこともある。その結果として、転倒や溺水などの2次的リスクを起こす可能性も出てくる。

寒い時期の安全な入浴法は、いくつかある。まず、脱衣所と浴室を暖め、部屋との温度差をなくすことが大事だ。湯船にはザブンと一気に入るのではなく、かけ湯をして体を湯に慣らすこと。腰から下までの半身浴で体を温めてから全身浴にして、水圧、浮力、温度刺激が緩やかになるようにする。生体リズムで血液の粘調度が高まる明け方は、入浴を避けた方がいい。

一般に、38〜40度の湯温で半身浴をするのが、健康のためには一番いいと言われている。だが、熱い湯が好きなのにぬる湯につかるのでは、風呂の楽しみが半減してしまうだろう。入浴の醍醐味は、リラックスとリフレッシュできること。安全に気を配れば、ある程度は自分の好きな入り方でいいだろう。ただ、入浴の前には家人に一言、声をかけるようにしてほしい。

入浴事故に65歳以上が多いのは事実だが、若い人にも実際に起こっている。飲酒の後や空腹で低血糖になっている時は注意が必要だ。特に飲酒後は、血管を拡張させて血圧を下げる作用や利尿作用があり、脳貧血を起こして転倒することもある。

入浴事故は、予防することが重要だ。いったん一心筋梗塞や脳卒中を起こせば、重症になったり、命を落としたりすることも珍しくない。働き盛りの人たちにこそ、気をつけてもらいたい。
(談話まとめ:内藤 綾子=医療ジャーナリスト)

[出典:日経ビジネス、2010/01/04号、猪熊 茂子=日本温泉気候物理医学会(東京都中央区)理事長]

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