【親知らずが与える影響】

最近、肩凝りがひどく、頭痛が続いているFさん(44歳)。口を開けると顎も痛むようになってきた。病院に行くと「親知らずのせいかもしれませんね」と言われた。

「親知らず」とは、18〜24歳になってから生えてくる一番奥の歯で、生えたことを親が知らないために親知らずと言われる。現代人は顎が小さくなっ てきていることもあり、親知らずが生えるのに十分なスペースがなく、きれいに生え揃うケースが少ない。多くは、斜めや横向きに生えたり、完全には出ていない、埋まっているなど、位置や状態、歯の形などが様々だ。

歯が埋まっていると、その周囲の組織が炎症を起こすことがあり、それが痛みや腫れなどの原因にもなる。また、一番奥の歯磨きをしにくい場所であるために管理が行き届かず、その部分にムシ歯や歯周病を起こしやすい。

このように、親知らず自体が痛んだり、周囲が腫れるといった明らかに歯が原因と分かる不調もある一方、Fさんのように頭痛や扁凝り、開口障害な ど、歯が不調の原因とは分かりにくい 症状が出ることもある。

例えば、「ここ1〜2年で歯と歯が重なるようになってきた」「口を開ける時に音がするようになってきた」という場合には要注意。口の中の狭いスペ ースに親知らずが生えて、ほかの歯が押されて動き噛み合わせが悪くなるために、顎に無理な力がかかり、顎関節症や肩凝りなどを起こすことがあるからだ。また、埋まっている親知らずが神経を圧迫し、三叉神経痛に似た痛みや頭痛などの原因になることもある。

多くの人は、20代の親知らずの生え始めの時に不調を訴えるが、それ以降の年代でトラブルが起こることも少なくない。いずれの場合も、根本的な治 療法は、親知らずの抜歯である。痛みなどの不快な症状がある場合にはもちろんのこと、症状がない場合でも、歯の一部が出ているケースでは、将来ムシ歯や歯周病になる危険性も高まるので抜くのが望ましいと考えている。

抜歯には綿密な検査を
本来、親知らずの抜歯は、20〜30代の若い時に行うのが望ましい。というのも、加齢とともに歯を支える骨が硬くなり、抜歯が難しくなるとともに、 治りも遅くなるからだ。また、中高年になるほど糖尿病や高血圧などの基礎疾患を持つケースも多く、その場合には感染症を併発しやすかったり、服用している薬の影響で止血しづらいなど、抜歯の際のリクスが高まる。そのため、高齢になるほど、抜歯の術前、術後の管理が大切になる。

痛みなどの急性の炎症がある場合には、それが治まってから抜歯を行う。その際には、まず抗菌薬の投与や消毒剤での患部の洗浄などで炎症を軽快さ せる。また、患部に膿がたまっている場合には、まずそれを取り除く。

特に中高年の場合には、親知らずがどのように生えているのかをよく見極めるための画像診断が重要になる。親知らずが埋まっているのか出ているの か、どの方向に生えているのか。埋まっている場合には深さはどれぐらいなのか、神経に接しているのかなどによって、切開の有無や位置、長さが変わるからだ。場合によっては歯を分割してから取り出すこともある。特に神経の近くに埋まっていたり、隣接している歯に接触しているケースでは、通常の]線検査だけでなく、3次元CT(コンピューター断層撮影装置)スキャンなどで位置を確認するのが望ましい。

通常は、外来で30分程度で抜歯できるが、親知らずが奥深くに埋まっている場合や、糖尿病などの基礎疾患があって術前や術後の管理を行う必要が ある時には、入院が必要になるケースもある。入院には、健康保険がきかない場合があるので担当医に確認を。

こうしたことから、まずかかりつけの歯科医に相談したうえで、状況に応じて医療設備が整った大学病院の口腔外科や、一般病院の歯科口腔外科を紹 介してもらうのがいいだろう。
(談話まとめ:武田 京子=医療ジャーナリスト)

[出典:日経ビジネス、2009/12/14号、大木 秀郎=日本大学(東京都千代田区)歯学部口腔外科学教室第一講座教授]

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