【内臓の位置を知っておく】

Kさん(62歳)は胃の痛みを訴えて、私のクリニックに来院した。それまではほかの病院で約半年間、胃薬を処方されていたという。初診時に腹部エコー(超音波)検査を行うと、直径2cmの膵臓ガンが発見された。

胃が痛いと言ってKさんが示した場所は、みぞおちだった。この「みぞおちの痛み」には注意したい。

みぞおちにある内臓の位置関係を説明しよう。みぞおちの皮膚の下にはまず肝臓がある。その裏(背中側)には胃と十二指腸があり、その奥に膵臓が位置している。また、肝臓に近い胆のうと胆管の痛みは、みぞおちに放散(響く)する。こうした特徴から、ほかの医療機関から転院してくる患者の中には、以下のようなケースが見られる ことがある。

@胃カメラで異常はないと言われたが、みぞおちの痛みが強く来院。腹部エコーで胃の裏の膵臓に進行性膵臓ガンが見つかった。
A処方された胃薬を飲んでいても、症状が改善せず来院。腹部エコーで確認すると、胆石が胆のうにあり、胆のう炎を起こしていた。胆のう炎の痛みはみぞおちに響くため、患者は「胃が痛い」と誤解し、医師もそれに気づかなかった。
B胃潰瘍ではないかと診断されたが、薬を飲んでもみぞおちの痛みが改善せず来院。腹部エコーを行うと、肝臓に直径8cmの肝臓ガンが見つかった。胃の前には肝臓が位置しており、肝臓の腫瘍によってみぞおちが痛むことがあるので要注意だ。

「みぞおち=胃」ではない
このようにみぞおちの痛みには、危険な誤診が多い。「みぞおち=胃」という思い込みを捨てることが肝要である。胃カメラによる検査で異常がないのに改善しない人、胃薬を服用しても軽快しない人は、胃以外の病気を疑って腹部エコー検査を希望してほしい。さらに万全を尽くすなら、CT(コンピューター断層撮影装置)やMRI(磁気 共鳴画像装置)検査で胃の周辺臓器の精密検査を受けるといいだろう。

医師不足、医療崩壊が叫ばれる中、自分の内臓の位置や数などを確認しておくのは重要なことである。それが医師の誤診も防ぎ、結局は自らの身を守る。健康リスクマネジメントと医療リテラシーの向上につながるはずだ。

体の不調を感じたら、解剖図を眺めるくらいの習慣を身につけてほしい。意欲のある読者には、『入門人体解剖学』(藤田恒夫著、南江堂)の一読をお勧めしたい。

Kさんは幸いにも、膵臓ガンは血管に浸潤してはおらず、大手術にはなったもののガンを取り切ることに成功した。私はKさんに「NHKスペシャル驚異の小宇宙人体」というDVDを贈った。Kさんは、人体の素晴らしさに夢中になっているようだ。

[出典:日経ビジネス、2009/12/07号、江田 証=江田クリニック院長]

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