【40歳から細胞が変わる?】

会議の準備に追われ、明け方まで仕事をしたHさん(45歳)。ちょっとだけ仮眠をと思い横になったら、寝過ごしてしまい、会議に遅刻した。

「気持ちは若い頃と変わらないのに、体がついていかない」。このように感じることは、中高年世代であれば誰もが経験しているだろう。体内細胞は40歳頃を境に変化する。これが、体に無理が利かなくなってくる大きな理由の1つだ。

人間の細胞には、糖を分解してエネルギーを得る解糖系優位の細胞と、有酸素呼吸でエネルギーを得るミトコンドリア系優位の細胞がある。解糖系優位の細胞はエネルギーを作り出す際の瞬発力が強く、ミトコンドリア系優位の細胞は持久力が強い。

人間の体は、40歳を過ぎた頃から、ミトコンドリア系優位の細胞が活発に働く。瞬発力よりも持久力が増し、陸上競技で言うと、短距離より長距離の方が得意になるのである。それにもかかわらず、若い頃と同じような働き方を続けていると、体に負担が生じ、大病を患う確率が高まる。

翌日に疲れが残るとか、体がつらいと感じたら、無理をし過ぎていると自覚し、静養してほしい。仕事であれ趣味であれ、やりたいことを続けていきたいのなら、できるだけ早いうちに生活習慣を是正すべきだ。特に病気にならないためには、免疫力の向上が必須となる。

交感神経の緊張に要注意
免疫システムを司る白血球には、顆粒球とリンパ球、マクロフアージがある。顆粒球は細菌処理を、リンパ球はウイルスなど小さな異物を処理する。マクロフアージは、白血球に占める割合は低いものの、ウイルスや細菌以外に、死んだ細胞の処理も行う。これら白血球は、交感神経や副交感神経といった自律神経との関わりが深い。

人生には思うようにいかないことが多い。それでイライラし不平不満を口にしていると、交感神経が緊張して血管が収縮し、血圧が上がり、狭心症や不整脈など循環器系の病気が起きやすくなる。アドレナリンが放出され、血糖値も上がる。

さらに交感神経の緊張は、リンパ球を減らし顆粒球を増やす。リンパ球が減ると、その働きが弱まって免疫力が下がる。極端な場合は、体内に常在するウイルスが暴れ出す。例えばへルペスや帯状疱疹の発症は、その典型的な例である。

顆粒球の増加が原因で起きる病気もある。歯周病、痔、びらん性の胃炎など粘膜に生じる病気は、顆粒球の増加に関連している。顆粒球は、老化の原因となる活性酸素を放出している。もともと如齢とともにリンパ球は減り、顆粒球は増えていく。ただでさえ増加する顆粒球を、交感神経の緊張でさらに増やすのは避けたいものである。

働き過ぎやストレスなどで交感神経が緊張しがちなビジネスバーソンの場合、副交感神経が優位に働く時間をしっかりと確保したい。本来、人間の体は日が沈むと休息を求め、副交感神経が優位となってリラックスできるものだが、夜遅くまで仕事をしていては、交感神経からの切り替えがうまくいかなくなる。

副交感神経を優位にするには、ぬるめの湯に浸かるのが効果的。入浴の際はシャワーで済ませず、湯船でしっかり体を温めてほしい。また、筋力を高めると代謝がよくなって体温が上がり、リンパ球の働きが活発になる。強いストレスにならない程度の運動は、免疫力の向上に有効だ。

体を冷やす要因の1つには薬がある。必要以上に薬に頼り過ぎず、自己免疫力を高めることを心がけてほしい。免疫力を高めていれば、いたずらにガンを恐れなくても済む。今後の人生を豊かなものにするために、いま一度、自分の生き方を振り返り、仕事への関わり方、生活習慣や心の有り様を、見直してみてはいかがだろうか。
(談話まとめ:仲尾 匡代=医療ジャーナリスト)

(出典:日経ビジネス、2009/11/30号、安保 徹=新潟大学大学院医歯学総合研究科(新潟市)教授]

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