【「肝機能障害」に潜む落とし穴】

健康診断で「肝機能障害」を指摘されていたAさん(50歳)が、腹痛を訴えて私のクリニックに来院した。それまで定期的に受診していた医師には、「脂肪肝でしょう」と言われ、採血のみの検査を受けていたという。

私はすぐに腹部エコー(超音波)を行ったが、Aさんの肝臓は既に肝硬変に変化しており、腹水と直径7cmの肝臓ガンが発見された。AさんはC型肝炎ウイルスに感染していたのだ。

C型肝炎による慢性肝炎、肝硬変の恐ろしいところは、ほぼ無症状のうちに進行することだ。健診では肝機能(GOT、GPT)の検査が行われるが、肝炎ウイルス感染の有無まで調べることは少ない。そのため、自分が感染していると気づいていない人が多い。

日本では約150万〜200万人がC型肝炎ウイルスに感染していると推定され、特に40歳以上に顛著だ。しかし、そのうちきちんと治療を受けているのは、たった50万人にすぎない。

血液検査だけでは安心できない
慢性肝炎が治療されずに長く続くと肝臓が硬く萎縮して肝硬変に進み、さらに肝細胞ガンに移行する危険性がある。40歳以上の読者は健診などで肝機能障害を指摘されたら、必ず肝炎検査を受け、B型・C型肝炎ウイルスの感染の有無まで調べてほしい。

肝臓ガンがあるか、今現在の肝臓の状態が慢性肝炎の段階なのか、既に肝硬変になっているのかといったことは、採血結果だけでは分からない。これが大きな落とし穴で、知らずに手遅れになってしまう人が多い。

従って、肝機能異常を指摘されたら、超音波検査を必ず受けてほしい。特に肝炎ウイルスに感染している人は、超音波検査で定期的に消化器専門医に診てもらい、肝臓ガンを早期発見することが何よりも大切だ。

何らかの診断を受けた人は、肝臓を保護する飲み薬や注射、インターフェロン(ウイルスを消す注射薬)などの治療でしっかり肝臓の炎症を抑えよう。肝硬変への進行を予防し、肝臓ガンができるのを抑えることが目標だ。

現在最も効果的なC型肝炎の治療は、インターフェロンである。以前は100万円単位の治療費を要したが、現在は患者の世帯当たりの市町村民税額に応じた自己負担限度額を超える治療費を国と都道府県が負担するインターフェロン医療費助成制度が開始されており、治療が受けやすくなっている。

最後に、C型肝炎患者全体で見ると、健常人よりも長生きしているという事実をお伝えしたい。これは、主治医と何でも相談できる良い関係を持ち、肝炎を治療していく過程で、胃ガンや大腸ガンなど肝臓以外の病気が早期に発見されたり、高血圧、高脂血症などの生活習慣病を治療したりしているためではないか、と言われている。

このデータは、時間と手間を惜しまずに自らの体を管理している患者と現代医学にとって、大変勇気づけられる事実だ。ウイルスに感染してしまった患者の無念さは計り知れないものだと思うが、この統計結果を胸に、勇気を持って治療をしてはしい。

「出典:日経ビジネス、2009/11/09号、江田 証=江田クリニック院長]

戻る