【新型インフルに備える】

流行の新型インフルエンザは、普段健康だからといって安心できないと感じているKさん(32歳)。これから冬にかけて、さらに広がつていくのではないかと、心配だ。

インフルエンザは、これまでにもおよそ10年に1回の割合で大流行し、毎回克服してきた。最も古い流行で記録に残っているのは、1100年頃の欧州にさかのぼる。

今回の新型(A/HINl)インフルエンザについても、自分が病気になるのを防ぐというだけではなく、社会の一員としてどのように克服していくか、という視点で考えることも重要だ。

ワクチンの接種は、インフルエンザの最も効果的な予防法である。ワクチンは、受けた人をインフルエンザウイルスの感染から予防するだけではない。地域や学校、職場といった特定の集団の中で、ある一定の割合以上の住民や児童・生徒がワクチン接種をすると、インフルエンザの流行の終息が見られる。社会の構成員の多数が免疫を持つことで、「集団免疫」が確立するためだ。

こうした集団免疫が増えていくことで、ひいては日本、そして世界での新型インフルエンザの克服につながると、私は考えている。接種対象になる人たちは、自分だけの効用のためにではなく、社会のためにも、ぜひ予防接種を受けてほしい。

また、インフルエンザにかかったら、必ず仕事を休むこと。日本では、「風邪ぐらいで仕事を休むなんて」などと非難するような風潮が根強くあるが、インフルエンザを広げないためには、感染者を治るまで隔離することが重要である。インフルエンザに関しては、すっかり良くなるまで自宅で休むことを、職場も社会も容認し、支援していくべきだ。

加湿器やマスクも有効
インフルエンザウイルスは、細胞内でしか生存できない。体外に出ると、だいたい8時間くらいで死んでしまう。人から人へと渡り歩き、次の細胞にたどり着くことができなければ、生き残ることはできない。

ウイルスが体外で生きていられる時間は、空気中の湿度が高ければ高いほど短くなる。冬にインフルエンザが流行する大きな理由は、空気が乾燥していることによる。そこで、室内では加湿器などを使い、空気中に十分水分を補給すると、ウイルスの生存率が低くなって、結果として感染予防につながる。

マスクの着用もまた、効果的な予防手段だ。例えば、インフルエンザにかかっている人が1回くしゃみをするだけで、約4万個のウイルスが半径2m以内に飛び散る。その1個が人にたどり着くだけで、感染が成立し得る。その人が仮にマスクをしていたら、ウイルスを含んだ飛沫のフィルターの役割を果たし、周りに飛び散るウイルスの数は減る。

ところで、新型インフルエンザワクチンに関して、米国政府は非常に積極的に取り組んでいる。2億5000万人分のワクチンを確保しており、これは国内供給には十分な量だとしている。

また、確保したワクチンの10%は、発展途上国に配布していく。接種に対しても、ワクチン自体は無料で配布するので、患者の負担は最小限で済む。

一方日本では、厚生労働省は約7500万人分の確保を目標としているものの、国内生産は2700万人分程度 しかない。約5000万人分は輸入に頼ろうという状態だ。

しかも、ワクチン接種にかかる費用は、基本的に個人の自己負担となる。これでは、ワクチンを経済的な理由で受けない人、受けられない人が出てきてしまう。

国際社会で日本の医療が高い評価を受けている中で、政府はワクチン自給率を高めるだけでなく、近隣途上国にも配布するほどの高い意識を持ってワクチン生産に積極的に取り組むべきではないだろうか。
(談話まとめ:當麻 あづさ=医療ジャーナリスト)

[出典:日経ビジネス、2009/11/09号、小林 恵一=ハワイ大学医学部内科臨床助教授・聖ルカクリニック(米国ホノルル)院長]

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