【筋肉トレーニングと健康】

朝のジョギングで足の筋肉を痛め、整形外科で治療を受けたGさん(48歳)。治療中に医師から筋肉トレニーングを指導され、筋力維持の重要性を知った。

筋肉は、日常の行動や生命維持に欠かせない器官でありながら、意外に人々の関心は薄い。Gさんのように、何かアクシデントが起きて初めて、その重要性を知る人も多いようだ。

筋肉は構造や働きの違いによって、骨格筋、平滑筋、心筋の3種類に分かれている。一般に筋肉と言う場合は、骨格筋を指す。

骨格筋には横紋(横縞模様)が見られることから、横紋筋とも呼ばれる。自分の意思で自由に動かせる随意筋で、手足の筋肉、腹筋、背筋などがそれに当たる。運動には欠かせない筋肉である。

平滑筋は、消化器などの内臓を動かす働きがあるため、内臓筋とも呼ばれている。血管の壁も平滑筋でできている。自分の意思で自由に動かしたり止めたりできない不随意筋だ。心筋も同様に不随意筋で、心臓だけにある筋肉である。

人や動物が歩いたり、食べたりすることは、生命の源である。体の機能は動くことによって健全に保たれている。しかし、私たち現代人は、原始時代や動物たちのように、野山を駆け巡って食べ物を探す必要がなくなった。これが様々な体の不調に影響を及ぼしている。近年増加しているメタポリックシンドローム(内臓脂肪症候群)は、その最たる現象だろう。

筋肉は大脳からの指令によって収縮したり、弛緩したりして動作を実現する。中高年になってこのバランス能力が低下したり、大脳の指令の伝達が遅くなったりすると、筋肉の働きが弱まり、転倒などにつながる。

しかし、筋肉自体は、年齢に関係なく、適切なトレーニングをすることによって維持できる。

筋肉をバランスよく争える
一般に筋肉と呼ぶ骨格筋には、毛細血管が豊富なために色が赤い赤筋(収縮が遅いことから遅筋とも言う)と血管が少ない白筋(速筋)がある。

赤筋は、ウォーキングやジョギング、サイクリング、水泳などの有酸素運動に使われる筋肉。白筋は、重量挙げやラグビー、相撲など、力を込めて行う無酸素運動の際に使われる筋肉だ。

健康維持や増進を目的に運動をする場合は、有酸素運動を勧められることが多いだろう。有酸素運動によって赤筋を鍛えることで、心肺機能が高まるためだ。

しかし、それだけでなく、白筋も同時に鍛えることが望ましい。白筋が増えることで、体脂肪や糖の代謝が促され、肥満の防止や改善にもつながる。有酸素運動だけでは、いくら1日1万歩歩いたとしても、筋肉自体が増加するわけではない。

赤筋と白筋をバランスよく鍛えるには、筋肉に少し軽い負荷を与えて、ゆっくりとした動作で行うスロートレーニングがお勧めだ。この方法では、まず赤筋を動かし、徐々に白筋を刺激して増やすことができる。

例えば、スクワット運動で足を屈伸させる時は、ゆっくりとした動作で呼吸を止めずに、膝を最後まで曲げ切らない、伸ばし切らないようにして行うといい。無酸素運動と同じ効果が得られる。

一方、熱の産生機である筋肉の量が減少すると、熱の発生が少なくなり、体が冷えやすくなる。冷えは「万病のもと」と言われる通り、様々な体の不調を引き起こす要由になると考えれられている。体の冷えを防ぐためにも筋肉(特に白筋)の維持・増加を心がけ、代謝を促すことは大切だ。

自分の健康は自分で守る時代である。欧米では健康と筋肉に対する意識が高いが、日本ではその相関性への認識もまだ低い。筋肉が健康に重要な役割を果たしていることに、もっと目を向けてもらいたい。
[出典:日経ビジネス、2009/11/02号、男澤 尚=順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センター(東細江東区)副院長]

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