【「内部」と「外部」】

20代の社員3人と飲んでいた人事部の尾島さん(47歳)は尋ねた。「会社に大きなメリットをもたらすが、良心は痛む仕事があるとする。上司から頼まれたら、あなたはやるか」。

男性のAさんは「やりません。そこまでの忠誠心を会社に抱いていませんから」と断言。Bさんはやや違った。「2階級特進のような恩典があればやるかも。でも告訴されるようなことはノー」。女性のCさんは「失敗した時のリスクによります。人の道に外れるようならしません」と答えた。

          なぜそんな質問をするのかと聞かた尾島さん。「関西の鉄道会社と事故調査委員会の間であった報告書漏洩事件について、意見を聞きたいと思って」。「中立をうたう事故調と接触したのはまずかったですね」とBさんが答えたところから、議論が交わされた。

   早く結論を知りたいという心理があったように思うとの発言に対し、「自がどれくらい事件に関わっているか を知りたいために?」と尾島さんが尋 ねると、「ええ。それに、社のためにも知っておきたかったのでは」という意見が出た。愛社精神や全体最適ということかと問うと、「全体最適は、内部で物事を判断する時に使われる用語ですよね」と確認された。いや、自分の部署が悪いと分かれば、自分たちはともかく、会社は守りたいという外部への力学が働くのでは。だとしたら全体最適だろうと答えた尾島さんと、彼れらの意見は微妙に異なった。

薄れゆく帰属意識
「普通は逆に、別の部門や会社が悪だよね」と言うでしょう」「それを保身と言い、転嫁と言う。ともあれ内部の論理「そう、往々にして内部の論理が事件を拡大させる」。

内部の論理という発言から、話題は 帰属意識へと移っていった。「内部へ の「帰属意識から、自分を犠牲にしてで も会社を守ろうとする人なんて今時いるかな」「いるよ、オレ(笑)」。そんな 軽口の後、帰属意識の薄れから出る 不祥事が増えているらしい。取り組ん でいたソフトを消してしまうとか、競合先に渡してしまうとか」という意見 が出た。「背景には根強い不満や不条理があるから、恨みの矛先は個人でなく、会社に向いてしまう。ところが最近は、内部も外部も一緒になって弱い 者をいじめるようになりましたね」。

聞いていた尾島さんは、何のことだろうと首を傾げた。「年末にあった派 遣切りですよ。被害者はいるけれど、 加害者の顔が見えてこない。7割の派遺社員は派遣元からも解雇されまし た」とAさんが言ったら、Bさんは「外部の人というだけで途端に保護されなくなる」と応じた。

そこでCさんが顔を上げた。「でも、 内部の正社員だって保護されるとは限 らない。契約社員化される研究職の人は、それでかなり辞めていったでしょう。入社する時に頁献しようと燃えていた社員は戸惑っていると思う」。

心の内部を見透かされた気がした尾島さん。「話の先をもう少し聞かせてくれないか」と言うのが精いっぱいだった。

[出典:日経ビジネス、2009/10/26号、荒井 千暁=産業医]

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