【肝臓ガンを切らずに治療】

C型慢性肝炎で数年前から通院中だったNさん(64歳)。定期検査で肝臓ガンが見つかった。肝臓を切除せずに済むラジオ波という治療法があると聞いたのだが。

ラジオ波とは、正確には「ラジオ波焼灼(しょうしゃく)術」と言う。ラジオに使用されるのと同じ周波数の高周波を用い、ガンを焼いて壊死させる治療法だ。通常、3cm以内のガンが3個以下の患者さんに適用するが、肝機能が良好なら、範囲外でも治療が可能なこともある。>

今まで、初期の肝臓ガンの治療には、開腹手術による肝切除が一般的だった。手術の場合、病変に到達するためにガン以外の部分を多く切り取らなければならなかった。一方、ラジオ波では、皮膚を2〜3mm切って直径1.5mmの電極針を病変に挿入するだけなので、ガンの部分のみをピンポイントで焼くことができる。

肝臓のダメージは最小限で済み、全身麻酔や開腹手術が不要なため、体全体への負担も少ない。肝硬変やそのはかの合併症のある患者さんや、高齢で開腹手術が困難な患者さんでも、この治療なら可能である。

また、肝臓ガンは再発しやすい。たとえ早期に発見でき切除したとしても、5年後の再発率は約8割。そのうち再手術ができるのは1〜3割だ。しかし、ラジオ披では、大部分のケースで再治療が可能となる。

治療前には、病変の位置や大きさを超音波やCT(コンピューター断層撮影装置)で詳細に検討する。治療では、大腿部に対極板を張り、超音波で病変の位置を確認しながら、局所麻酔下で電極針を皮膚から病変内部に挿入。ラジオ披電流を流して電極周囲を約100度に熱し、ガンを死滅させる。ガンの大きさや個数によって異なるが、治療時間は30分から2時間程度だ。

治療後4時間はベッド上で絶対安静が必要だが、当日から食事ができ、翌日には歩行も可能となる。通常は翌日に造影剤を用いたCTで治療後の病変を確認し、ガンが残る可能性が少しでもあれば、追加治療を行う。

8割の患者さんは10日以内に退院できるが、退院後2週間は激しい運動や旅行などは避けてほしい。ただ、重労働でなければ、仕事を再開しても構わない。

転移性肝ガンでも良好な成績
ラジオ波に使用する装置は米国で開発され、日本には1999年に本格導入された。その後日本での治療件数は年々増え、現在では、世界一(日本3万8500件、米国1万4400件、中国9500件=2008年累計)となっている。

これほどまでに日本でラジオ波が普及した背景には、この治療に必要となる技術が、経皮的エタノール注入療法といった肝臓ガンの内科的治療で既に確立されており、世界的に高水準であつたことが関係している。

ラジオ波は、正しく治療を行えれば、ガンを根治することも可能だ。日本肝癌研究会の追跡調査によると、原発性肝ガン(肝臓でもともと発生したガン)の5年生存率では、手術が53.4%、ラジオ波が57.3%と、手術よりも良い成績が出ている。

なお、欧米では原発性肝ガンよりも大腸ガンの肝転移など転移性肝ガンにラジオ波が使われており、良好な成績を上げている。日本でも今後は、大腸ガンの肝転移などにもラジオ披が広く使われていくだろう。

2004年に保険適用が認可され、治療数や治療を扱う病院数はさらに増えた。しかし、懸念すべき問題も出てきている。ラジオ波は簡単な治療のように思われがちだが、手術同様に危険を伴う。経験豊富な医師が高性能の超音波やCTを使って治療に当たらないと、血管やほかの臓器など、病変以外の組織に損傷を与え、命に関わる合併症が引き起こされることもあり得る。また、十分に焼灼できずにガンが残存することもある。治療を受ける際には、治療件数などを調べて、実績のある施設を選んでほしい。
(談話まとめ:仲尾 匡代=医療ジャーナリスト)

[出典:日経ビジネス、2009/10/26号、堆名 秀一朗=京大学医学部附属病院(東京都文京区)消化器内科講師]

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