【110年ノーベル賞なし 悪いのは医学教育制度】

今回、ノーベル生理学医学賞を取った米国の3人のうち2人は女性で、1人はまだ40代でした。ノーベル賞ができて110年近くたちます。日本では、その間に医学部を卒業した人は、恐らく110万人はいます。それなのに、その中に1人もノーベル生理学医学賞を取った人はいない。これは、おかしい。

教育のシステムという「畑」が悪いのです。制度の問題。人材は良い。種は良い。遺伝子は良い。でも、畑が悪いの。良き畑を若い研究者に与えるような配慮をすればいいのです。

米国のように、4年の大学を卒業した人が4年の医学校を出るような形にする。今、聖路如にそういう医学校を創ろうと思って、工作中なのです。

8年ですから、この医学校を出たらドクター。つまり、ドクターコースなのです。4年間で基礎的なことを終えているので、すぐに患者さんを診ながら勉強できる。今までの制度では、教授にくっついて見ているだけです。初めから教育の仕方が違う。

そんなことを言うと、古い医学部の人たちは反対します。でも、古い体制を壊して新しいものを創ることが大事なのです。変えないとダメ。実験をしないと。そのためには、勇気をもってやらないといけません。

この10月で、私は満98歳になりました。でも、どうしても、ピンときません。2000人ぐらい集まる講演で、88歳になりましたと言い間違えて、すぐに訂正することもあります。今の感じは78歳かなといったところです。外見は見ての通り100歳近いですが、内側をひっくり返すと、20歳は若い。

それは、どういうことかと言うとですね、常に新しいことを始めるからです。よくお話ししていますが、私は還暦の頃、哲学者のマルティン・ブーバーが書いた言葉を読んで、まさしく目からウロコが落ちたのです。ブーバーが自分の先生に「なぜいつまでも若々しいのですか」と聞いたら、「新しいことを始めることさえ忘れなければ、人は老いない」と言った、という話です。

私は「始める」を「創める」と書きます。やったことのないことを創めよう、行動しようという意味です。科学でなくてもよいのです。芸術でもビジネスでも、創めることが大事です。

人は一生で、持っている2万2000の遺伝子のほんのわずかしか開拓しないといいます。使わない遺伝子が大部分だとなると、それをどう発掘するか。やったことのないことに飛び込んでいく勇気があればいい。私は、その勇気をブーバーからもらったのです。ですから、私の人生は60歳を過ぎて、すっかり新鮮なものになった。

まだまだ、いくらでも新しく創めることはあります。

医師不足が言われますが、4年制の大学を出たナースにね、2年間の修士課程で麻酔を教えれば、できるに決まっている。米国では外科手術の8剖の麻酔はナースがかけている。日本は麻酔は麻酔科の先生しかできないことになっているから、麻酔科の先生が足りない。ナースに麻酔を教える、この仕組みを今度、聖路如で創めようと考えています。(談)

[出典:日経ビジネス、2009/10/26号、日野原 重明(ひのはら しげあき)=聖路加国際病院理事長]

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