【突然聞こえなくなったら】

ある日突然、耳が塞がったような感覚を覚えたAさん(50裁)。音が聞こえづらくなり、耳鳴りもひどくなったため、たまらず耳井科へ駆け込んだ。

特別なきっかけもなくある日突然、片方の耳に異物が詰まった感じや、塞がっている感じ(耳閉感)があるなどの違和感を覚えるのは、突発性難聴の典型的な症状だ。健康な耳を塞いでみて、音が聞こえづらくなっていることに気づき、初めて耳鼻科を受診する人が多い。

耳の構造は、外耳、中耳、内耳に分かれている。外耳と中耳は音の振動を内耳に伝える。内耳はその振動を電気信号に変換し、蝸牛(かぎゅう)神経から脳へ伝えるという仕組み。突発性難聴は、内耳に起こる障害で、受診している患者数は年間3万5000人以上に及ぶ。

耳鼻科では、突発性の発症であるか、明らかな原因がないか、ほかの症状はないか、発症時の状況などを問診で確認する。次いで視診を行い、鼓膜が正常か、中耳炎がないか、詰まっている異物はないかなどをチェックし、問題がなければ聴力検査をする。健康な人の平均聴力レベルは30デシベル以下だが、50デシベルあるいは70デシベル以上といった高度の難聴が確認されると、この病気が疑われる。

音が異常に響く、割れる、二重に聞こえる、音程が狂うなど人によって様々な訴えがある。めまいは約半数の患者で見られ、吐き気に悩まきれる人もいる。耳鳴りを伴う患者も多い。ほとんど片側の耳にだけ発症することも特徴だ。

原因は分かっていないが、風邪などのウイルスが内耳に炎症を起こすウイルス感染説と、毛細血管の血流が妨げられ内耳に血液が十分届かずに機能不全を引き起こす内耳循環障害説が有力だ。そのほか、ストレスも発症に関係していると言われている。

人間関係を悪化きせる深刻さも
患者の状態によっては、入院して安静にするのが望ましい場合もある。ステロイド剤や血管拡張剤、ビタミン製剤などの点滴治療を施し、1週間から10日間くらいで退院できるだろう。ただし、完治する人と、症状が軽快する人、治らない人の割合はそれぞれ3分の1ずつくらいなのが現状だ。

難聴の程度が高度なほど治りづらい。特にめまいを伴っている人は、内耳にある蝸牛と前庭の両方に障害があるため治療も難しい。発症後1週間が治療の効果が高い期間であり、その時期が遅れるほど治癒率が低下する。1カ月も放置しておけば症状が固定化し、その後の回復はほとんど見込めないだろう。耳に違和感を覚えたら、1日でも早く受診することが肝心だ。

突発性難聴は、基本的に原因不明で確実な治療法がない難病であり、厚生労働省の特定疾患の1つに指定されている。患者の傾向には男女差はなく、飲酒喫煙及び食生活もあまり関係がない。50〜60代に多いものの、30代などにも見られる。一度かかると再発することは稀だ。もし再発を思わせる症状があれば、メニエール病(激しいめまいが起こる内耳の病気)、聴神経腫瘍、外リンパ瘻(ろう)(内耳液が漏れる病気)を疑い、詳しい検査をする必要がある。

読者の中には、片方の耳が難聴でも、もう片方の耳がカバーしてくれるのだから、大したことはないと思う人もいるかもしれない。だが日常生活では、後方から呼びかけられても方向が分からずキョロキョロするような不便さはもちろん、自転車や車などが迫ってきても気づかずに事故に遭うなどの危険もある。耳鳴りで安眠できず、不眠症になる人もいる。

会社では、悪い方の耳から話しかけられても気づかなかったり、会議中に悪い耳の方向からの意見を聞き取れず、聞き返すことを繰り返したりすれば、誤解を受けることにもなりかねない。外見的に障害が分からず、周囲の理解が得られにくいことも、この病気の持つ隠れた副症状と言えるだろう。
(談話まとめ:内藤 綾子=医療ジャーナリスト)

[出典:日経ビジネス、2009/10/19号、松永 達雄=国立病院機構東京医療センター(東京都目黒区)耳l咽喉科/聴覚障害研究室長]

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