【賢い漢方薬の使い方】

風邪を引くと市販の漢方薬の葛根湯を飲むことにしているFさん(46歳)。最近、メタポリツク症候群にいい漢方薬があると聞き、試してみたいと思っている。

ストレス社会の中で、いろいろな検査を受けても臓器に異常は認められないが、症状がなかなか取れないという、いわゆる未病の人が増えている。漢方薬はそうした人たちに有効な薬剤であり、私たちの漢方外来にも多くの人が受診している。

西洋医学で使う薬(西洋薬)と、東洋医学で使う漢方薬や鍼灸では、その目的に大きな違いがある。感染症を例に挙げると、西洋薬は炎症の原因となった細菌を攻撃して治療効果を高めるのに対して、漢方薬などは患者さんの免疫力を高めて感染症にかかりにくい体質を作ることを目指す。

また、東洋医学では「心身一如」という言葉があり、身体症状に心理的、精神的要因が関係していれば、そうしたものも含めて治療する。

漢方外来ではまず、体格や顔色、皮膚や舌の状態を観察し(望診)、声や口臭(聞診)、自覚症状(問診)、脈診・腹診(切診)によって全身状態を把握する。その後、西洋医学で病名に当たる「証(しょう)」を診断して、それに応じた漢方薬を処方する。

例えば同じ高血圧でも、患者さんの心身の状態は異なるので、それぞれの患者さんに合った薬を数種類の中から選んで処方する。漢方薬の場合は、選択の幅が西洋薬よりもはるかに広いので、よりオーダーメードな治療が可能と言える。

安易な服用は副作用の恐れも
漢方薬の有用性が知られ、医療消費者が漢方薬を飲む機会も増えてきたが、薬剤であることを忘れてはならない。適切に服用すれば効果が上がる一方、無分別に服用すれば副作用が出現することもある。

昔から流行り風邪に効果があると言われている葛根湯は、風邪の引き始めに服用すると短期間で改善する。特に、葛根湯の一部の成分から成る麻黄湯は、インフルエンザに有効とされる西洋薬のタミフルと同程度、もしくはより短期間に解熱効果が表れる薬として注目されている。

しかし、麻黄の生薬には交感神経を亢進させる働きがあるため、降圧剤を処方されている人が服用した場合、血圧を高め、脈を速くしてしまうことがある。

脳卒中や心臓病などの心血管障害を起こす原因となるメタポリック(内臓脂肪)症候群は、血圧値、コレステロール値、血糖値、肥満度がそれぞれ軽度に複合する病態である。メタポリック症候群の改善には、防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)が効果的と言われているが、これを服用して薬物性肝障害(肝機能異常)を起こしたケースが報告されている。

すべての人に障害が起こるわけではないが、安全に服用するためには、定期的に血圧やコレステロール値、血糖値を測定するとともに、肝機能検査をすることが大切だ。

漢方薬は証を正しく診断して処方するのが基本である。不足しがちな栄養素の補給を助けるサプリメントやハーブなどの栄養補助食品、ドラッグストアなどで手軽に買える市販薬とは異なる。従って、漢方薬を試してみたい時は、漢方外来のある医療機関を受診するのが望ましい。

最近は、医薬品店や薬局などでも漢方薬が人手できるようになっている。漢方薬を服用する際、1〜2週間しても効果が表れなかったり、体がだるい、微熱が続く、皮膚がかゆくなる、足がむくむ、動悸がするといった副作用を思わせる症状が出る場合もある。自分で購入してこのようなことがあれば、医療機関を受診するのがいいだろう。

漢方薬というと、効果がマイルドで副作用も少ないと思われがちだが、服用する際は西洋薬と同じように、医師の処方を受けるのが基本だということを覚えておいてもらいたい。
(談話まとめ:田野井正碓=医学ジャーナリスト)

[出典:日経ビジネス、2009/10/12号、五野 由佳理(ごの・ゆかり)=北里大学病院(神奈川県相模原市)総合診療部漢方外来]

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