【ペットから感染する病気】

イヌを飼い始めたYさん(52歳)。日々、寝食を共にしており、周囲も呆れる溺愛ぶりだ。しかし最近、何となく体調が優れず、微熱が購いているという。

ペットブームと言われて久しい。ペットフード協会が毎年行っている「犬猫飼育率全国調査」によれば、2003年以降、日本国内で飼育されているイヌ・ネコの数が、15歳未満の子供の数を上回るという現象が起きており、年々その数値の差が開いている。

少子高齢化が進むにつれ、人々がペットに心の拠り所を求める傾向はますます高まっている。そして、ペットと我々の関係が、より身近で密接になるとともに、増えてきているのが「動物由来感染症」である。

動物由来感染症とは、文字通り動物からヒトにうつる病気のことを指す。イヌやネコを含めた哺乳類、鳥類、爬虫類、両生類、魚類など脊椎動物と、ヒトとの間で共通感染する。その種類は、実に800種余りも存在し、中でも世界保健機関(WHO)が重要と定めた122〜166もの疾患は、世界中で年々増える傾向にある。日本でも、そのうちの半数弱の疾患について、問題視されるようになってきた。

一般的によく知られている「狂犬病」のように、ヒトと動物双方に症状が表れる疾患もあれば、動物側は無症状で、ヒトにのみ感染症状が表れる疾患や、ヒトから動物へうつる「ヒト由来感染症」もあるため、きちんとした認識を持っておくことが大切である。

ヒトにのみ症状が表れる疾患としては、「パスツレラ症」「猫ひっかき病」「Q熱」などが代表的だ。パスツレラ症と猫ひっかき病は、それぞれの菌に感染したイヌやネコにひっかかれたり、咬まれたりすることでヒトに感染し、局所の疼痛や化膿、リンパ節腫脹、発熱などの症状が表れてくる。また、Q熱は、イヌ・ネコのほか家畜や野鳥、野生動物からの原因菌を吸入することにより発症し、発熱や倦怠感、不定愁訴などの症状が表れる。

いずれも重症化することは少なく、抗生物質の投与で完治する。しかし、動物側には症状が表れないため、発症の原因がペットや動物であることに思い当たらず、受診した医療機関でも適切な治療が受けられないケースもある。現実問題として、動物由来感染症の専門医は全国でもごく少数しか存在せず、動物病院側とのネットワークが重要な課題となっている。

ペットとの過剰な接触は禁物
動物由来感染症は必ず治る。従って、決して怖い病気ではない。ペットや動物からヒトにうつると聞くと、動物ばかりを悪者にして過剰なまでに反応する向きもあるが、問題なのは「ペットや動物とつき合う距離感」なのである。

溺愛するあまり、ペットとキスをしたり、口移しで食べ物を与えたりはしていないだろうか。我々が想像する以上に、動物の口内には多くめ細菌が存在している。唾液を介して、ヒトの体内にその菌が入れば、当然病気になるなどの不都合が生じてくる。

私は常々、「ペットは恋人ではない。あくまでも友達とつき合う感覚で接してほしい」と呼びかけている。よほど特別な場合を除けば、友人とキスをしたり、口移しで食べ物を与え合う行為はあり得ないことである。

また、動物由来感染症と診断された患者の中には、就寝中に、同じ寝室で寝ていたイヌに知らないうちに顔をなめられていたことで発症したケースもある。寝室も別にする方が望ましいだろう。屋内でペットを飼っている場合には、部屋の空気を清潔に保つよう心がけることも大切だ。

さらに、ひっかかれたり、咬まれたりすることで発症する疾患もあるため、日頃からペットに対してきちんとしたしつけを施す必要がある。動物由来感染症を回避するためにも、“猫かわいがり”であってはならない。「親しき仲にも礼儀あり」と心得ておきたいものだ。
(談話まとめ:新家 美佐子=医療ジャーナリスト)

[出典:日経ビジネス、2009/10/05号、兼島 孝=みずほ台動物病院(埼玉県富士見市)院長、琉球動物医療センター院長]

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