【オーラルケアが健康寿命を延ばす】

歯と歯の間の歯茎が赤く腫れているYさん(42歳)。
食ベカスが詰まり、爪楊杖を使う回数も多くなった。歯周病なのだろうか。

歯周病は40〜60代に最も多く見られるが、自覚していない人が6割前後もいるというデータがある。

歯周病は、歯肉炎、歯周炎を総称する歯茎(歯肉)の病気だ。プラーク(歯垢)中の病原性を持った細菌が増殖すると、マクロフアージ(貪食細胞)や多核白血球(好中球)が遊走してきて細菌を殺そうとする。これが炎症反応で、このために歯茎が腫れる。放置すると、歯茎の色が紫がかり、歯の縁から全体に腫れてくる。

炎症反応は、好中球による活性酸素の放出を招き、引き続いてマクロフアージが一酸化窒素(NO)と呼ばれる物質を出す。活性酸素は酸素毒とも言われ、これにより細胞の酸化反応が連鎖的に起こり、病的な老化も進行するとされている。

一方、マクロフアージが放出するNOは血管を拡張する作用があるが、活性酸素はNOの血管拡張作用を阻害 してしまう。口腔内の活性酸素が増えると、徹小血管(心臓の筋肉の中を走る細い血管)を介して全身に拡散する。活性酸素は全身の老化を促進するだけでなく、生活習慣病の発症にも関与する物質だから、歯周病を契機に活性酸素が増加した状況は、脳卒中や心臓病、糖尿病、高血圧など生活習慣病のリスクを背負うことになる。

歯周病はすなわち、糖尿病や高血圧と同じ全身病の1つである。治療よりも病気をコントロールすること、予防することが肝要だ。

治療から管理する診療へ
医療は治療から予防の時代に入ったと言われるが、予防歯科の分野は、身体疾患に比べると遅れている。患者さんも、生活習慣病ほどには、歯ないしは口腔内の予防に関心がないように思われる。しかし、歯周病に端を発した活性酸素の影響を考えると、予防歯科の重要性が分かるだろう。

「虫歯があるから」「歯茎が腫れて食べたいものが食べられなくなったから」、仕方なく診察を受けるのではなく、定期的に受診してオーラルケアを心がけることが大切だ。高血圧の治療は、高くなった血圧を運動療法や降圧剤で管理するのが目的である。同じように歯周病も、歯科医とともに管理するという姿勢で臨んでもらいたい。

日常的な予防としては、緑黄色野菜など抗酸化物と言われる食品を含むバランスの良い食生活を心がけてほしい。人間の体には活性酸素を消去する機能があるが、加齢とともに消去機能も衰える。これを補うことが目的だ。

口腔内の細菌を減らすためには、こまめな歯磨きとうがいが有効である。さらに、唾液の中には抗菌作用とともに抗酸化作用を持つラクトフェリン、ペルオキシダーゼといった物質が含まれている。フツ素やキシリトール入りのガムを噛むと唾液が増え、酸化ストレスも媛和される。高血圧や糖尿病のコントロールに比べれば、習慣にしやすい方法だろう。
(談話まとめ:田野井 真緒=医学ジャーナリスト)

[出典:日経ビジネス、2009/08/10・17号、李 昌一=神奈川歯科大学(神奈川県横須賀市) 生体管理医学講座薬理学分野教授]

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