【患者よ、不安を語ろう】

高血圧で総合病院の内科に通院中のBさん(64歳)。最近、胸が重くなったり、喉が痛んで声がれが長引いたりといった症状が強くなった。喉頭ガンや食道ガンなどの危険な病気が気になって仕方ない。

医師に相談したものの、「扁桃腺炎でしょう」という説明のみで、不安が解消できずに私のクリニックに来院した。

「解釈モデル」というキーワードがある。患者は様々な不安を泡え、病院を受診する。そして各々、自分の症状に自分なりの解釈をし、自分なりの病名を予測している。そんな「患者診断」をしてやってくるものだ。

昔の医師の中には、患者が「風邪だと思うのですが」などと言おうものなら、「素人に何が分かる!」と言って怒る人がいたものだ。しかし、これは最新の医療コミュニケーションを勉強している医師から見ると、医師の騎りのように映る。賢い医師は、この患者診断を患者の解釈モデルと捉え、診断・治療の手がかりとして真撃に聞くようになった。

患者の話は診断のカギ
患者診断、すなわち解釈モデルを素直に開くと、実に様々な情報が得られる。「どんな病気を心配してきたのか」を患者に直接開くことで、その病気を心配するに至った背景、理由、症状、これまでの病歴、家族の健康状態、経済状態、人間関係などまでが、ストーリーが流れるように理解できる。そして何よりも、患者の不安や命の危険を感じる切迫感や、やるせない心情が共感できるのである。

「診断は患者の会話の中にこそある」と、私は思っている。実際にこの解釈モデルを意識した問診により、重大な病気が速く的確に診断できることは多い。検査の結果、患者診断による病名がたとえ間違っていても、その理由をきちんと説明することで患者の不安を払拭し、医療への満足度を上げることができる。

これから医師にかかる時には、症状に対する不安を自分なりに解釈して、患者診断を述べてみよう。もし、それを揶揄するような医師には、「これは患者なりの解釈モデルなのですが」と切り出してみる。それでハツと我に返り、傾聴しないような医師は勉強が足りない。患者の側から、医師の「選手交代」を宣言してもいい。

稀で重大な病気を心配して悩むよりも、正確な診断は医師に任せることとして、まずは「心の不安」を正直に語ろう。「体の症状」は5月21日(367号)の本コラム「患者版ホウレンソウの心得」の「LQQTSFA(痛みの場所・性質・程度・時間・経過・関連要素・随伴症状)」を用いて適切にプレゼンテーションしよう。そこから道は開ける。そうすればあなたも自分自身という「かけがえのない大切な人」の立派な“主治医”になれる。

[出典:日経ビジネス、2009/07/13号、江田 証=江田クリニック院長]

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