【坐骨神経痛に手術は必要?】
営業マンのBさん(48歳)は、腰椎椎間板ヘルニアが原因の坐骨神経痛に悩まされている。
病院で手術を勧められたが、やはり受けた方がいいのだろうか。
坐骨神経は、背骨の腰椎から出た2本と、骨盤の中心にある仙骨から出た3本の太い神経が合わさった
神経叢(そう)を起点とする末梢神経である。
この末梢神経は人の体で最大最長。尻たぶから太ももや膝の後ろを通って、すねの外側、ふくらはぎ、足首の外側にまで分布して、知覚や運動を司っている。この神経が炎症や外傷などによって刺激されたり圧迫されたりすると、神経は異常事態発生と判断して、脳に警告信号を送る。これが、坐骨神経痛の痛みの正体だ。
一般に神経痛というのは症状名(愁訴)のため、基本的には原因となる疾患が存在する。坐骨神経痛の場合は臨床経験的に見て、腰推と腰椎の間にある推間板が飛び出したり膨れたりする腰推推間板ヘルニア(LDH)、腰椎の脊柱管が狭くなる腰部脊柱管狭窄(LCS)の2つが圧倒的に多い。
LDHやLCS以外には、変性すべり症、変性側窄症、脊椎炎、脊椎腫瘍、神経腫瘍、股関節疾患、骨盤外傷などのほか、婦人科や内臓疾患、鬱病、動脈硬化などの血管の病気が原因となることもある。このように原因疾患は様々な領域にわたっているが、9割程度は整形外科領域と見てよいだろう。ただし、原因疾患の判断を間違うと大きな問題となることもあるため、できるだけ専門医での受診をお勧めする。
症状としては下肢の痛みや痺れのほか、冷えやだるさなども表れるが、LDHやLCSが原因となる坐骨神経痛
では、一種の老化現象によるものであるため、さほど心配する必要はない。
しかし、体の屈伸による痛みが増強したり、安静時でもお尻や足に激しい痛みが生じたり、歩行障害が出たりするなど、症状がますます悪化して持続する場合や、排尿や排便がしにくくなる場合(膀胱直腸障害)は、速やかに整形外科で診察を受けてほしい。
3カ月は様子を見る
診察では、問診や体の動作による反応を調べたりする理学的な診療を詳細に行う。さらに、血液検査や]線検査、MRI(磁器共鳴画像装置)やCT(コンピューター断層撮影装置)による検査なども実施する。
治療法は原因疾患によって異なる。薬剤治療や神経ブロックによる治療法などもあるが、LDHの場合は飛び出した推間板ヘルニアが自然に吸収・縮小して、神経への圧迫が除かれることも多い。腰に負担をかけず、安静を保ちながら生活していれば、約3カ月で8割の人が改善する。LCSでも7割の人は同様に改善するので、少なくとも3カ月は保存的治療で様子を見てほしい。最終的に手術が必要になる人は少ないと言える。安易な手術は避けるのが賢明だろう。
なお、日本脊椎脊髄病学会のホームページ(https://www.jssr.gr.jp/jssr_web/html/)では、全国の指導医の連絡先などを公開している。専門医を探す際の参考にしてほしい。
(談話まとめ:杉元 順子=医療ジャーナリスト)
[出典:日経ビジネス、2009/0706号、増田 彰男=三井記念病院(東京都千代田区)整形外科部長]
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