【部門ごとの温度差と心理学】

社内報編集の手を休めて社内SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の日記欄を眺めていた与田さん(企画広報室勤務、45歳)は、「停滞ムード」や「社風」という言葉に目が留まった。「改革の笛吹けど踊らず。停滞ムードが漂っています」との吐露があり、「ウチには改革しようという意識が根づかないようだ。これは社風だろうか」との意見があった。

社風と大きく括ってしまうより、部門ごとの風土に温度差があるのだろうと与田さんは思う。社内には停滞している部門と、活気に満ちた部門がある。活気のあるなしは、部門ごとの採算性とも関連がある気がする。

順当に収益を上げている部門にいる社員たちの日記を読むのは楽しい。「営業と一緒に見て分かる現場の市場動向は、僕ら技術・品質管理部門にとって目からウロコ。データ偏重による思い込みの怖さを日々痛感します。今日は開発にいるO先輩が同行。懸案だった事案に対するソリューション(問題解決)が見えてきました」。

この部門は、まずビジネスの内容に沿ったメンバーを横断的に集めるプロジェクト推進チームを作った。メンバーは原則として公募制とし、営業と技術・品質管理、研究開発の人材を必ず入れた。プロジェクトは年に2〜3件増え続け、推進チームの社員たちは興味を抱いたプロジェクトに移籍していくため、常にメンバーが入れ替わる。リベラルなのだ。

「感情脳」を納得きせよ
停滞している状況はよくないと皆分かっているはず。与田さんが「頭では分かっていても実行できない理由をどう解釈すればよいのだろうね」と会議で話したところ、かつて認知心理学を専攻した部下が解をくれた。

「『理性脳』と『感情脳』の関係がキーポイントでしょう。行動決定権があるのは、感情脳の方です」

停滞をもたらす背後には、“億劫”という心理が潜んでいることが多い。だから忙しい現実に振り回されていると、「面倒なことは勘弁してくれ」という気持ちになる。感情脳が納得していないのだ。一方で、理性脳と感情脳は互いにストローク(存在や価値を認めるための働きかけ)し合っているのだという。

「億劫とか面倒といった気持ちから、ムダが生まれたりするのは有害であり、危機だと判断して予見するのが理性脳です。感情脳には予見するカがない。でも、予見された危機に理由がしっかり添えられていれば、感情脳は従ってくれる。生存に有利か不利かを総合的に判断して行動に結びつけようとするのが感情脳ですから」

理性脳からのストロークがあっても、それが生存にとって無意味だと感情脳が判断すれば「不要」というストロークを理性脳に返す。逆に「必要」だと感情脳が判断すれば受け入れ、ストロークとして受けた情報を、記憶としてストックする。「記憶する場所は感情脳にも理性脳にもあるのです」と、その部下は言う。

これからは人間の心理や思考パターンの知識を社員たちにもっと広める必要がありそうだ。停滞という重たい弊害に総力戦で立ち向かってみよう。与田さんは今、企画広報と人事とのコラボレーションで、億劫さを払拭するための企画を思案中だ。

[出典:日経ビジネス、2009/06/29号、荒井 千暁=産業医]

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