【膝の痛みをあきらめない】

膝の痛みの悪化で、趣味の登山をあきらめたTさん(60歳)。
同じ膝の痛みで悩んでいた知人が最新の手術を受け、スポーツを楽しんでいると耳にした。

膝の痛みを伴う疾病のうち、加齢とともに発症しやすくなるものの1つに「変形性膝関節症」がある。膝 の軟骨がすり減って、関節の滑りが悪くなる病気だ。症状が進むと膝を動かす際に痛みが生じ、ひどくなると生活に支障が出るようにもなる。

軟骨がすり減るのは加齢のせいと思われがちだが、タイヤのように使った分だけすり減るものではない。80歳を超えても膝に痛みを感じない人がいる一方で、膝に負担をかけてきたわけではないのに50代で軟骨がすり減り、歩くのがつらいという人もいる。

この違いには、遺伝的体質が関わっていることが分かってきた。もともと軟骨が摩耗しやすい体質のうえに、高血圧、高脂血症、肥満、糖尿病といった生活習慣病から血管が老化し、軟骨に栄養が十分に行き届かなくなると、摩耗はさらに進んでしまう。

変形性膝関節症は、おおむね]線撮影で診断がつく。当院ではリウマチの可能性を考慮し、MRI(磁気共鳴画像装置)や血液検査も実施する。変形性膝関節症と診断がつけば、薬物療法、運動療法、生活指導などが行われる。

お勧めしたい運動は、水中歩行や自転車こぎ。膝に負荷をかけずに膝の周りの筋肉を鍛えられる。痛みがない時には階段の上り下りもいいだろう。軟骨の摩耗の抑制には、グルコミンサンやコンドロイチンといったサプリメントの摂取も有用だと言われている。

また、膝にヒアルロン酸注射を打つ治療法も一般的だが、通院時間、注射の痛みといった負担の割に、あまり痛みが軽減されない例も多い。特に膝に水がたまっていると、効果は薄れる。水がたまるのは炎症のせいであり、それを抑えない限り痛みは治まらないのだ。当院では、極少量のステロイド剤を注射し、炎症を抑える治療も行う。ただし、ステロイド剤の多用は軟骨を痛めるため、使用は3カ月以上の間隔を空け、1年に2回までと決めている。

重症では手術の検討も
従来、重症の患者さんには、骨を切って関節の軸をずらす手術や、関節の骨を削り取り人工骨を埋め込む手術が行われてきた。いずれも体への負担は大きく、1カ月以上の入院が必要など、中高年には勧め難い手術法だった。しかし、新たに開発されたUKA手術法では、削り取る骨を従来の5分の1にとどめ、骨の一部のみを人工骨に取り換える。入院期間は2週間。傷の痛みはあるが、手術の翌日から歩ける。

変形性膝関節症は、命に関わる病気ではないし、放っておくと歩けなくなる病気でもない。当院でもあえて手術は勧めていないが、医学の発達で寿命が延びた昨今、膝の痛みのために好きなこともできずに残りの人生を過ごすとなると忍びない。痛みから逃れ、人生を謳歌したいと強く望む患者さんには、手術を検討している。Tさんのように趣味を楽しみたい人なども、専門機関で相談してみるといいだろう。
(談話まとめ:仲尾 匡代=医療ジャーナリスト)

[出典:日経ビジネス、2009/06/15号、天本 藤緒=東京リウマチ・膝関節治療センター(自由が丘整形外科)(東京都目黒区)院長]

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