【脳の“中間管理職”を鍛えよう】

不況の影響で会社をリストラされたAさん(40歳)は、鬱症状で私のクリニックを受診した。うなだれて「死にたい」と訴えるAさんに、私は最新の抗鬱剤を処方すると同時に、これまで患者に教えてきた「脳幹活性法」を指導した。

人体システムは、手足の運動など自分の意識で動かせる「随意部門」と、体温調節や胃腸の動きなど意識では制御できない「不随意部門」とに大別できる。大脳の下部に位置する脳幹は、心臓・呼吸・睡眠のリズム、自律神経などを司る不随意部門の中枢センターである。従って、脳幹を鍛えることは、生命の根本機能を高め、ストレス耐り性を向上することにつながる。

脳神経はシステム向上の要
不随意部門であれば、意識しても刺激できないのではという印象があるかもしれない。しかし、脳幹には目や顔面など随意部門を支配する計12個の「脳神経核」という神経組織が存在する。意識で制御できる随意部門の脳袖経核が脳幹に存在するという解剖学的な特性を手がかりとして、自分で不随意部門の脳幹に刺激を与えることができる。
脳神経核とは、大脳にある上位ニユーロン(神経細胞)と末梢神経(下位ニューロン)への中継地点である(イラスト参照)。すなわち、不随意部門と随意部門をつなぐスイッチと考えてよい。社長(上位ニ ューロン)からの指令を、従業員(下位ニューロン)へつなぐ中間管理職(脳神経核)を鍛えることで、 システム全体の向上を目指すのと同じである。脳幹活性法は、脳神経核上位ニューロン(社長)からの指令を下位ニューロン(従業員)へつなぐ中間管理職(脳神経核)えお鍛えることで、システム全体の向上を目指すのと同じである。脳幹活性法は、脳神経核を包括的に刺激する効果的なトレーニングだ。

診療後、背中を丸めて診察室を出ていくAさんの後ろ姿に、私は回復と幸運を心から祈った。

1カ月後、診察室を訪れたAさんの笑顔を見て、私は本当に安堵した。Aさんが言うには、抗鬱剤と脳幹活性法のおかげで、肩こりや眼精疲労が取れ、前向きな気持ちになれたとのことだった。ふとした気づきが得られたり、幸福感が増したともいう。こうした効果は生理機能が向上したことを意味すると言える。

鬱々とした気持ちをどうにもできないこともある。そういう時には1人で悩まず、医師に相談し効果的な薬剤のカを借りたり、他人に相談したりしてほしい。そのうえで、脳幹活性法もぜひ試してみてもらいたい。

[出典:日経ビジネス、2009/06/15号、江田 証=江田クリニック院長]

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