【「AED」は誰でも扱える】

Tさん(40歳)は公共施設などで「AED」と書かれた心臓救命装置を見るたびに、いざという時、 医学知識がなくても使えるのかと気になっている。

日本人の死因で一番多いのはガンだが、それに次ぐ心臓病では、毎年約17万人が亡くなっている。こ のうち、急性心筋梗塞で亡くなるのは5万5000人と推計されている。

心臓は、電気系統(心臓の筋肉の一部から発信される電気信号を伝える仕組み)の働きによって一定のリズムで収縮を繰り返している。この収縮のリズムに異常を来すのが不整脈だ。

不整脈の中には特に治療を必要としないものもあるが、心臓の血液を全身に送る心室が震えて、血液を送り出せなく「心室細動」が起こると、臓器や脳にも血液がいかなくなり、やがて心臓が停止してしまう。心室細動は最も致死率の高い不整脈で、急性心筋梗塞を起こすと高頻度で発生する。

「AED(Automated External Defibrillator=自動体外式除細動器)」を、その場で使って命を救うことができる可能性の高い装置だ。

AEDの箱を開けると2つの電極パツドがある。これを左右どちらかの肩の下と反対側の胸下に張り(イラスト参照)、音声ガイダンスに従って装置のボタンを押すと、電気刺激が与えられて心臓マヒを起こした人が蘇生する。

心臓マヒを起こした人に遭遇する機会は稀だが、誰にでも遭遇する可能性はある。倒れた人を見かけたらまず、大きな声で「どうしましたか」「大丈夫ですか」と声をかけ、意識と呼吸の有無を確認する。呼びかけに答えなければ、急いで救急車の手配とAEDを持ってきてもらうよう要請する。同時に気遣を確保し心臓マッサージを行う。AEDが到着したら、あわてずに電極パッドを張って電気刺激を与える。

救命率は1分ごとに1割低下
AEDは誰でも簡単に扱えるように工夫されているので、ためらわずに使ってほしい。大都市では、突然の心臓発作から救急車到着までにかかる時間は平均6分とされている。心室細動の救命率は、発生から1分経過するごとに10%低下すると言われているので、5分遅れれば半数の命が失われる。しかし、救急車到着までの間にそばにいる人がAEDを使うことで、それらの命を救うことができるのだ。

米国でAEDの講習を受けた地域と受けなかった地域での心停止例の蘇生・回復率を調査したところ、前者の地域では128例中30例が生存して退院したのに対し、後者では生存退院は107例中15例に過ぎなかった。つまり、AEDに慣れた人がいる地域での蘇生、回復率は2倍近かったのである。

一般人へのシミュレーション教育は、多くのインストラクターを必要とする。しかし、日本ではその数が極めて限られているのが現状だ。当院は、医療従事者、医学生などに1次蘇生法(BLS)を指導するインストラクターの養成を行っているが、AEDとBLSへの理解を深めていくことが、多くの命を救う最善の道だと考えている。
(談話まとめ:田野井 真緒=医学ジャーナリスト)

[出典:日経ビジネス、2009/06/08号、中西 成元=虎の門病院(東京都港区)医療安全アドバイザー シミュレーション・ラボセンター長]

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