【患者版「ホウレンソウ」の心得】

会社社長のHさん(65歳)は、総合病院で胃腸炎と診断された。だが、処方された薬を飲んでも腹痛は悪化する一方。詳しく症状を説明しても、忙しそうな医師はいらいらしている様子で、意思の疎通が図れない。そこで困って、私のクリニックに来院したという。

ビジネスの世界で要領の良い「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)」が円滑な業務遂行に不可欠なのと同様に、良質な医療を受けるには、多忙な現場で働く医師と上手にコミュニケーションを取ることが必要だ。事実、米国では、より良い医療を受けるための患者教育が学校などで行われている。

では、医師とのコミュニケーションを円滑にするには何が必要か。まずは症状を簡潔に伝えることが重要だ。話が飛んでまとまらないと、医師に敬遠されるだけでなく、正しい診断をしてもらえず、命を落とす恐れもある。

メモに役立つキーワード
ここで、症状を伝えるうえで役立つキーワードをお知らせしたい。それは、表に示した「LQQTSFA」である。Hさんの腹痛を例にまとめてみた。

Hさんの症状を開き、私は虫垂炎と診断した。決め手は「Location(場所)」だった。虫垂炎は最初にみぞおちが痛くなり、時間とともに痛みが右下腹部に移動する。初期に嘔吐があるために、「胃腸炎」と誤診されることが多い。

この「LQQTSFA」は、あらゆる症状を伝えるうえで有用である。メモを書いてきてくれる患者もいるが、冗長で要領を得ないと、かえって時間がかかってしまうと思う医師は多いのだ。「LQQTSFA」を基に「医療リスクマネジメントメモ」を作り、診察時に提示すると、医師の診断の助けになる。日本の患者の医療リテラシーのレベルもきっと上がるだろう。

医師を含む医療者と良好な関係を作ることも心がけてほしい。そのためのコツの1つが「Good&Positive 法」だ。医師に症状を尋ねられた時、何か1つでもいいことや明るいことを話すのである。

医師は朝から晩まで苦しみや辛さを訴える患者に対応することがほとんどだ。外来であそこが痛い、検査値が悪い、病院の対応がなっていないなどと悪いことばかりを言い連ねると、親切な医師でも心が重くなってしまう。

そこで、検査値が1つでも良くなっていれば「よかった」と考え、治療に前向きな姿勢を示そう。混雑時でなければ、孫が生まれたなど私生活の明るい話題を伝えるのもいいだろう。そうした話を開けば、医師は病人があふれる職場で救われるような思いがするものだ。医療現場も職場と同じ対人間の世界。「ありがとう」といった感謝の言葉をかけることも、医師との関係を良好にする。

私はすぐにHさんを外科に転送し、外科では緊急開腹手術で虫垂を切除した。虫垂はあと少しで穿孔し、致命的な腹膜炎になるところだった。Hさんはその後、私の提唱する医療リスクマネジメントメモを活用し、患者として“名プレゼンテーター”となったのは言うまでもない。

[出典:日経ビジネス、2009/05/18号、江田 証=江田クリニック院長]

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