【筋力維持で健康増進】

天明・寛政(1781〜1801年)年間、小野川とともに相撲の黄金時代を築いた2代目谷風は、江戸時代最強の力士である。谷風の達成した63連勝は昭和の時代に双葉山が69連勝を果たすまで、記録を破る者はいなかった。

ある時、谷風と小野川が石清水八幡宮(現蔵前神社)の境内で対戦した。界隈は米問屋の町で、朝から人だかり。店先では力自慢が米俵を担いで競っていた。そこへ、対戦前の谷風が通りかかり、子供たちが声をかけた。

「関取なら、米俵を拍子木代わりに打てるかどうか見せてください」「そうさな。10回は打てるだろう」

谷風はひょいと両手に5斗俵を持つと、ドスンドスンと26回ぶつけた後、高笑いを残して人込みの中へ消えていった。

今度は小野川も通りかかった。子供たちは小野川に谷風が俵を26回打ったことを伝えた。すると、小野川は俵を両手に持って、1回ドスンとぶつけただけで、地面に放り投げてしまった。

「こんなものは簡単だ。わしだって30回はできる」

そう言い残して立ち去った。見ていた人々は小野川の非力を笑い、今日の相撲は谷風が圧勝すると予想したが、結果は意外にも小野川の勝ちだった。

後で、小野川は親しい人に言った。「谷風関が米俵を26回も拍子木にしたというのを聞いて、わしは勝てると思いました。だから、わしは1回しか打たなかったのです」。

怪力の谷風でも米俵を持ち上げて、26回もぶつければ体力を消耗する。そこを小野川が突いたのだった。

1943(昭和18)年、墓地の移転のために谷風の墓を掘ったところ骨が見つかり、大腿骨は48cmもあった。そこから、谷風の身長は1m91cm前後と推測された。腹の突き出た太ったタイプをあんこ型と言う。谷風は典型的なあんこ型の巨人だった。

力士のCTスキャン結果
あんこ型は重心が安定し、取り組みが優位になるため、力士は猛烈に食べてあんこ型を目指す。そこで、気になるのは力士の内臓脂肪である。力士は確かに怪力の持ち主ではあるが、健康に問題はないのか。カロリーを取り過ぎると、余分なカロリーは脂肪細胞に蓄積される。そうした体脂肪には、内臓脂肪と皮下脂肪がある。このうち問題なのは、内臓の周りにたまる内臓脂肪だ。これがたまり過ぎると、血糖値 が上がり、血圧が上昇し、動脈硬化が進行して、心筋梗塞、脳梗塞へのリスクが高まる。

内臓脂肪の研究が進んだ90年初頭、力士の内臓脂肪の検査がCT(コンピューター断層撮影装置)スキャンを使って行われた。その時、体重200kgを超える力士の検査が行われたが、CTスキャンの台が動かず、検査が不能となった。それでも何とか調べたところ、ほとんどの力士には内臓脂肪は見つからず、血糖値やコレステロール値なども正常だった。力士の体は筋肉が発達していて、皮下脂肪は多くたまっているが、健康そのものだったのだ。

生活習慣病から身を守るには運動が欠かせない。食べ過ぎを抑えることも大切だが、日常的に運動をして筋肉を発達させたり、それを維持することにも努めるべきだろう。

[出典:日経ビジネス、2009/04/27号、堀田 宗路=医学ジャーナリスト]

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