【病気は「未病」から始まる】

残業や休日出勤が続き、何となく体調が優れないKさん(42歳)。
いわゆる「未病」なのだろうか。「そのうち病気になるわよ」という妻の言葉も気になっている。

今わが国の医療は転換期を迎えている。長い間、病気になってから治療するという受け身の医療が続いてきたが、これからは「病気を未然に防ぐ」予防医療の時代と言われる。それを反映して「未病」という考え方が注目を集めており、日本では推定6000万人、実に2人に1人が該当すると考えられている。

未病は「いまだ病にあらず」、つまり「はっきり病気だとは言えないけれど、全く健康かというとそうではない」という、病気に至る前の半健康状態を表現する言葉である。

未病を治すのは自分白身
長い一生の中で、常に病気と健康の状態がはっきり分かれるわけではない。健康な人が、ある日突然病気になることは実は稀である。長い年月をかけて発病する生活習慣病がいい例だ。健康から病気に至るまでは連続しており、その間の、健康とは言えないが病気でもないグレーゾーンの状態、つまり未病を放置していれば、確実に病気になってしまう。早く気がつき対策を立て実行すれば、大事に至る前に健康 を回復できる。

これは、医療経済的にも極めて重要な意味を持つ。病気にならないように気をつける、また、軽度な病気を自分で治すことで医療費の大幅な削減に結びつくはずだ。その財源を産科や小児科、救急医療などに回せばいい。

未病は新しい考え方ではない。2300年前の中国最古の医学書である『黄帝内経』(こうていだいけい)に登場している。この書物には、未病に対する医師の取り組みが重要だとも説かれている。「聖人不治既病、治未病」、すなわち「名医は、既に病気になってから治療するのではなく、病気に至らない間に治療を行い、病気を起こさせない」という意味である。つまり、「未病を治療できる医師こそが優れた医師である」と、すでに漠の時代に言われていたのだ。

未病という概念は古い歴史に裏打ちされ、そして21世紀の今日、改めて脚光を浴びつつある。わが国でも未病に対応できる医師の養成も急務と言えよう。

では、西洋医学では実際にどのような状態を「未病」と定義するのか。「自覚症状はないが、検査をすれば軽度ながら異常値を示す状態」を言う。具体的には肥満や脂肪肝、高脂血症、高血圧、境界型糖尿病、高尿酸血症などの軽症なもの、それらを併せ持つメタポリックシンドローム、もしくはその予備軍も立派.な未病だ。1日3合以上の飲酒者や30本以上の喫煙者もこの範疇に入る。

未病は生活習慣の歪みや乱れの表れであり、生活習慣病の入り口に位置する。未病の状態が続くと本物の病気へと進んでしまう。「医師」に頼るのではなく、自分の“意思”が試される時代になった。「未病を治す」のは自分自身であることを肝に銘じて、ライフスタイルを見直してみるとよいだろう。
(談話まとめ:江木 園貴=プレゼランス)

[出典:日経ビジネス、2009/04/27号、栗原 毅=栗原クリニック東京・日本橋(東京都中央区)院長、慶応義塾大学大学院教授]

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