【胃が弱まると頭脳も働かず】

世の中は速読術やノート術など勉強本ブームで、自己啓発が流行している。しかし、そうした頭脳を支え る「体の健康術」については無頓着な人が多い。優秀な頭脳も、シャープな体があってこそうまく回転するものだ。熱血Dr.の診療日誌

「仕事に身が入らなくて困っているんです」。メーカーの企画部に勤務するEさん(34歳)は、朝は特に胃がもたれ、のどが詰まる感じもして、大事なプレゼンテーションの場でも集中できないと言う。

胃と脳は神経で密接に関連しているため、胃もたれなどの症状は知的生産の効率を落とす。さらに、重症な心不全よりも患者のQOL(生活の質)を下げることが統計上分かっている。

朝食には良質なたんばく質を
胃の動きには大きく分けて、図のような「食後の運動」と、「空腹時の運動」がある。我々は日中に活動し、夜中に睡眠を取っているが、胃はこの逆で夜中の空腹時の方が、食後よりずっと活発に動いているというわけだ。

しかし、夜遅くに食事をすると、胃の食後の運動が夜中にも続いてしまい、空腹時の運動になかなか移行できなくなる。胃の掃除が十分にできていないと胃もたれにつながり、頭脳にいくべき血流が胃に集中するため、仕事に身が入らなくなる。夜食事をするなら、遅くとも9時までには済ませて、胃の掃除力を味方につけたい。

夜中にずっと働いていた胃も、明け方になると動きが鈍る。そして朝になると交感神経が緊張し、胃の動きを抑制する。また、出社前や通勤前にはストレスホルモンであるCRF(corticotropin−releasing factor)が脳の視床下部から分泌されるが、これも胃の蠕動運動を弱めてしまう。

従って朝食には、胃の働きをあまり必要とせず、胃液だけで消化できるものが望ましい。同じカロリーで あれば、胃の動く時間が最少で済むのがたんばく質、次が糖質(炭水化物)。胃の中に最も滞留してしまうのが脂肪である。

例えば、ゆで卵や豆腐、鶏肉のささみや白身魚などを取り、ベーコンや霜降り肉、サンマやアジの開きといった脂肪の多い魚などは避けるのがコツだ。体に優しいと思われる野菜や海苔も、朝に食べ過ぎると胃に長くとどまるので、胃の弱い方にはお勧めできない。良質なたんばく質を取った後、脳のエネルギーにすぐに変わってくれる糖質(米やパン)を追加すれば、理想の朝食と言える。

Eさんは逆流性食道炎と診断されたが、よく問診すると、夜遅くに食事をし、朝食は脂肪分の多いフアストフードのハンバーガーで済ませるといった食生活をしていた。これが胃に負担をかけて動きを鈍くし、胃酸や食物が食道に逆流。炎症を起こしてのどが詰まる症状に苦しんでいたのだった。

私は胃の運動について話し理解してもらい、薬は処方しなかった。Eさんはやがて、食生活を改めることで症状を克服し、仕事にも意欲的に取り組むようになっていった。

[出典:日経ビジネス、2009/03/23号、江田 証=江田クリニック院長]

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