【お遍路と日々の「感謝行」】

2006年の夏から、四国八十人ヵ所巡り、いわゆるお遍路を始めました。きっかけとなったのは、医師から「このままでは生死に関わる」と言われたほどの体調悪化でした。

近年では環境問題やCSR(企業の社会的責任)活動に注力する企業が増え、昨年スタートさせた社員の環境問題に対する意識を向上させる社会貢献プログラム「エコモチ(エコ・モチベーション・アップ・プログラム)」にも関心が集まるようになりました。しかし、私が環境教育やコンサルティング業務を行う現在の会社を興した当時は、環境への取り組みの重要性が、あまり理解されていませんでした。

そのため、とにかく事業のことを知ってもらおうと、要望があれば深夜でも休日でも構わず出かけていくような、24時間365日無休のスタンスで働きました。おかげで生活は不規則を極め、健康診断ではすべての検査数値に問題が見られるようになってしまったのです。そんな時、知人からカイロプラクティツクの治療院を紹介されて施術を受け始めたのですが、その際、カイロプラクターに勧められたのがお遍路でした。

お遍路では1日20〜25kmほどの道のりを歩きます。体力が必要とされるため、体調を整えようとおのずと規則正しい生活を心がけるようになりました。平日の夜8時以降はなるべく仕事のアポイントや会食を入れないようにし、週末もしっかり休むと決めました。当初は業績に影響が出るのではないかと心配していましたが、それは単なる杷憂でした。

また、黙々と歩きながら納経(札所でお経を納めること)を続ける中で、精神状態が身体に大きな影響を及ぼすことにも気づきました。自身の体調悪化も、ストレスを受けたり与えたりしている状況を長く続けたことで、病の芽を育ててしまったのでしょう。あのままむちゃを続けていたら、いつか命を落としていたかもしれません。

こうした気づきを得たことで、今、生きていること、生かされていることへの感謝の念が生まれました。地球環境のために、企業のために貢献する現在の仕事も、私の天命だと思えます。

就寝前に「ありがとう」
お遍路へは年に1〜2回、5日程度のまとまった休みが取れる時に出かけているのですが、毎日の就寝前には「感謝行」を行っています。お遍路で使用している納経帳の前で読経してから、その日に会った一人ひとり、また社員一人ひとりの顔を思い浮かべて、その人の名前を呼びかけながら「ありがとうございます」と唱えるのです。

意見を違えてしまった人などに対しては感謝するのが難しいこともありますが、そんな時にも「新たな価値観に気づかせてくれてありがとうございます」と唱えると、気持ちがスッと落ち着きます。こうして心の疲れを癒やしてから1日を終えることで、また新鮮な気持ちで新しい1日を始めることができます。

お遍路は現在までに第37番札所の藤井山・岩本寺まで回りました。今年も歩を進めるのを楽しみにしています。今の目標は88歳まで現役で元気に働くこと。心身の健康を保つためにも、お遍路と感謝行はこれからも続けていこうと思っています。
(談話まとめ:田村 知子=フリーランスエディター)

[出典:日経ビジネス、2009/03/16号、船橋康貴氏=フル八シ環境総合研究所社長]

参考:
船橋康貴(ふなはし・やすき)氏
1960年生まれ。82年中京大学文学部心理学科卒業。
名古屋工業大学大学院博士後期課程在籍中。
セントラルファイナンスなどを経て、2001年から現職。
2008年経済産業省産業構造審議会専門委員就任。

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