【胸部大動脈瘤が見つかったら】

人間ドックのCT検査で胸部大動脈瘤が見つかったKさん(59歳)。
自覚痘状は何もないが、手術をした方がいいのだろうか。

大動脈は心臓から全身へと血液を運ぶ血管で、横隔膜より上部を胸部大動脈と言う。胸部大動脈の直径は通常約20〜30mm。これが拡大し、1.5倍を超えて約40mm以上になったものを胸部大動脈瘤と呼ぶ。

胸部大動脈瘤のほとんどは無症状のうちに進行するため、破裂して初めて判明したり、人間ドックなどでCT(コンピューター断層撮影装置)検査を受けた時などに偶然見つかるケースが多い。大動脈痛が大きくなり、声帯への神経を圧迫すると声がかすれたり、食道を圧迫すると食べ物をのみ込みづらくなるといった症状が表れることもまれにある。

加齢や動脈硬化による血管の劣化が発症の大きな要因と考えられるが、その人の体質や生活習慣なども関与するため、一概には言えない。

胸部大動脈瘤は、発生部位により3タイプに分けられる。心臓から頭の方へ向かう部分にできると「上行大動脈瘤」、弓状にカーブする部分では「弓部大動脈瘤」、腹部へ向かう部分では「下行大動脆瘤」と呼ぶ。形状にも、血管の周囲全体が拡大する「紡錘状」、血管の一部が拡大する「嚢状」がある。

統計では、胸部大動脈瘤の年間破裂率は直径40〜49mmで1.4%以下、50〜59mmで4.3〜16%と、50mmを超えると急にリスクが高まる。そのため、大動脈瘤が50mm未満の場合は半年に1度程度のCT検査で経過を観察していくが、50mmを超える場合は、破裂を予防する手術を行う。ただし、嚢状の場合は破裂しやすいため、50mm未満でも手術をした方がいい。

基本的に手術では、大動脈瘤を切除し、その部分を人工血管に置き換える。人工血管はダクロンという化学繊維を編み込んだもので、数年後に再び交換するといった必要はない。

手術の際には、脳梗塞や心筋梗塞といった合併症が1〜2%の割合で見られるほか、術後の在院死亡率は全国平均で5〜10%程度ある。とはいえ、大動脈瘤が破裂すれば、命を落とす確率が非常に高い。破裂後は手術が行えないことも多く、例え手術が行えても死亡率は非常に高率になる。

なお近年は、腹部大動脈瘤で導入が進むステントグラフト(金属製の筒を折り畳んだ器具)による治療を希望する患者さんが増えている。大腿部の動脈から器具を挿入するため、切開が必要な従来の手術法より体への負担が少ないと言われているが、胸部大動脈癌では手術治療より脳梗塞の発症率が高いなど、評価は定まっていない。当センターでは基本的に、何らかの理由で手術ができない場合に選択している。

胸部大動脈瘤では、正確な診断と手術適応の見極めが重要だ。また、施設間の手術成績の差もほかの心臓手術以上にある。心臓外科医の中でも大動脈瘤の手術経験が豊富な医師の診察を受け、適切な治療方針を確認してほしい。
(談話まとめ=田村 知子=フリーランスエディター)

[出典:日経ビジネス、2009/01/26、和田 秀一=川崎幸病院(川崎市幸区)大動脈センター大動脈外科・心臓外科部長]

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