【睡眠薬と上手につき合う】

体は疲れ切っているのに、毎晩眠りが浅いHさん(49歳)。
医師に処方された睡眠薬も気軽に飲んでいいのか、少し不安が残っている。

不眠症は、入眠障害などの睡眠問題が1カ月以上続き、日中に倦怠感、意欲・食欲低下などの不調が出現する病気。日本人の5人に1人は睡眠で何らかの悩みを抱えていると言われ、特に注意が必要な慢性不眠症患者も1000万人近くいる。原因は、ストレス、心や体の病気、薬による副作用など様々だが、不眠症治療は主に、薬物療法が中心となっている。

しかし、不眠症患者の中には、睡眠薬に対するネガティブな先入観がある人もいる。中毒になるのでは、ひどい副作用が出るのではといった心配をよくされるが、現在一般的に使用されている非ペンゾジアゼピン系の睡眠薬は安全性が確立されている。医師の指導の下に服用すれば、まず問題はない。

とはいえ、睡眠薬は催眠作用だけではなく、筋弛媛作用なども持っているので、ふらつきや転倒などの副作用が見られることもあるので注意したい。翌日眠気が残る場合もあるが、なるべくそれを避けるため、短時間作用型の睡眠薬が処方されることが一般的だ。ただし、明け方に目が覚めてしまう不眠には、より作用の長い睡眠薬が処方されるなど、その人の不眠タイプに合わせた薬が処方されるだろう。

睡眠薬を不安がって、短期間服用しては勝手にやめ、また眠れなくなるために、再び睡眠薬を短期間服用するといった人が時々いるが、その悪循環が一番よくない。不眠症患者は、「眠れない」体験を繰り返すことで眠りに対する不安緊張がさらに高まり、不眠が悪化することが多いからだ。

睡眠薬の効果で「眠れない」という症状が取れたら、安全で確実なやめ方が、きちんと医師から指導される。一般的なのは、数mg単位で薬の量を減らし、2〜4週間その量で様子を見ながら、さらに減らす。また2〜4週間かけて様子を見るといった具合に、数 カ月かけて離脱する方法だ。不眠症を克服するのは、長期決戦と心得ていてほしい。

眠れないとアルコールに頼る人も多いようだが、寝つきは良くなるものの眠りは浅く、非常に質の悪い睡眠となるので、お勧めできない。また、最近薬店などでよく売れているという睡眠改善薬は、もともとアレルギー治療薬(抗ヒスタミン薬)で、副作用で眠気が出ることを利用したもの。仕事の疲れなどによる一過性の不眠の人には向いているが、1カ月以上不眠が続くようなら受診する方が賢明だ。

眠りはセルフコントロールできると思われがちなため、薬に頼ってはいけないという観念が働いてしまう。しかし、慢性不眠は立派な病気であり、セルフコントロールではまず解決しない。鬱病が陰に潜んでいることもある。不眠の症状が長引くようなら、かかりつけ医、もしくは精神科の医師に相談して、きちんと睡眠薬を処方してもらうことが正しい解決への近道だ。
(談話まとめ:内藤 綾子=医療ジャーナリスト)

[出典:日経ビジネス、2009/01/12号、三島 和夫=国立精神・神経センター精神保健研究所(東京都小平市)精神生理部部長]

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