【焼き塩で歯を磨く】

将軍は朝7時に寝床を出ると、顔と歯を洗う。歯は、医師が調合した歯磨き粉、焼き塩、松脂の粉末の3種類のうち、その日の気分で好きな物を房楊枝(現在の歯ブラシ)につけて磨いた。その日、もし5代将軍徳川綱吉が歯磨き粉として焼き塩を選んだとしたら、まさに因縁だろう。その日とは、元禄15年12月14日(1703年1月30日)。かの赤穂浪士の討ち入りの日である。

元禄期まで三河吉良(愛知県吉良町)で生産された「饗庭(あいば)塩」は味もよく、全国で評判の塩だった。一将軍家も歯磨 き粉として吉良の塩を使っていた。そんな塩の市場に異変が起きた。

播州赤穂(兵庫県赤穂市)の浅野家は、吉良の製塩法を学び、塩の製造に努力した。その結果、赤穂で生産された「花形塩」は関西で有名になり、焼き塩としても売り出されるようになった。その赤穂の焼き塩が綱吉に献上され、江戸でも有名になってしまったのだ。赤穂47士が事件を起こすそもそもの発端には、そんな塩のシェア争いがあったという。

焼き塩は簡単に作れる。市販されている自然塩をひとつかみほどフライパンで空炒りする。5〜10分でキツネ色になったら出来上がり。

本来の塩(自然塩)は水分やにがりが多く含まれていて、ベタベタとして使いにくいが、高温で乾燥すると水分が飛んで結晶が小さくなる。にがりの塩化マグネシウムも焼き塩では変化して、湿気がなくなり、サラサラとして味もよくなる。料理にもいいし、歯磨き粉にもいい。塩は口の中の雑菌を殺して、歯肉を鍛えてくれるはずだ。

[出典:日経ビジネス、2008/12/15号、堀田 宗路=医学ジャーナリスト]

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