【漢方薬で風邪を治す】

来週から、楽しみにしていた旅行に夫婦で出かけるというのに、風邪を引いてしまったSさん(52歳)。
閑散期なので仕事に支障はないが、何とか早く治したい。

風邪の治療は、仕事を1日でも休みたくないような人の場合は、西洋医学の薬を飲んで、熱や頭痛、鼻 水など、個々の風邪症状を抑えることになる。この方法だと、風邪を引いている期間は短くならない。一方、Sさ んのように、2〜3日休養することができて、しかも1週間後には風邪の症状をなくしてしまいたいような時に は、漢方薬を試すとよいだろう。漢方薬では、体が自然に治ろうとするカを助け、風邪を引いている期間を短くす る効果が期待できる。

漢方薬の種類は、一口に風邪と言っても、その症状や程度、引き始めかどうか、などによって異なる。例えば、 風邪の引き始めで、寒気や発熱があり、肩や首筋が張っているが、汗はかいていないような状態の時には「葛根湯(かっこんとう)」がよい。また、インフルエンザのように高熱が出て、体の節々が痛む場合には「麻黄湯(まおうとう)」、のどがチクチク痛むような風邪や咳が長引く風邪キこは「桂麻各半湯(けいまかくはんとう)」がよい。さらに、水っぼい鼻水やくしゃみ、痰がある時には「小青龍湯(しょうせいりゅうとう)」が効く。

なお、西洋医学の薬と漢方は、一緒に飲むのはあまり好ましくない。なぜなら、例えば漢方薬では熱を上げて免 疫力を高めるのに対して、西洋医学の解熱剤では熱を下げるというように、両者の薬の作用は全く異なるからだ。 そこで、漢方薬を飲んでいて、どうしても一時的に症状を抑えたい場合に限って、西洋薬を飲むようにしたい。

ウイルス性胃腸炎にも、漢方薬を使うことがある。特に、腹痛と発熱、下痢を伴う腸炎には「黄琴湯(おんごんとう)」を使うことで症状が軽くなり、早く治った例が少なくない。黄琴湯には、黄琴のほか、大棗(たいそう)、芍薬(しゃくやく)、甘草(かんそう)が含まれている。また、嘔吐や下痢で脱水気味になり口が渇いて尿の量も減っている時には「五苓散(ごれいさん)」を飲むと、点滴をしないで済むことが多い。

ところで、漢方薬はすぐに効かないようなイメージがあるが、実はそうではない。症状に適した薬を飲めば、服 用してから30分くらいで、体が楽になるのが感じられるはずだ。逆に、1日経ってもあまり楽にならないような ら、再度医師を訪ね、相談してみるといいだろう。

風邪や胃腸炎のほかにも、漢方薬を試す価値のある症状はいろいろある。例えば、加齢による夜間頻尿、手術を 必要としない軽い前立腺肥大や白内障は「八味地黄丸(はちみじおうがん)」で症状が和らいだり、進行を遅らせたりすることができる。

漢方医学は、「全人的」な医学であると言われる。つまり漢方では、患者の訴える症状だけを診るのではなく、冷 え性か汗かきかなどといった体質も含めて患者を診断し、それに適した薬を処方する。そこで、漢方薬を試してみ たい人は、自己判断で薬を飲まずに、まず漢方に詳しい医師に相談してみてほしい。
(談話まとめ:藤麻 あづさ=医療ジャーナリスト)

[出典:日経ビジネス、2008/11/24号、松岡 孝紀=まつおかクリニック(茨城県鹿嶋市〉院長]

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