【心房細動をむやみに恐れるな】

健康診断の心電図検査で「心房細動」だと指摘されたTさん(51歳)。
病院受診を勧められたが、どんな病気なのだろうか。

心房細動は、脱が規則正しいリズムを失った状態の総称である「不整脈」の一種。心臓の心房が細かく 震えて血液の流れがよどみ、血栓(血液の塊)ができやすくなる病気だ。

時間が経つと長期的に持続しやすい不整脈で、動悸や息切れなどの自覚症状で見つかるケースもあれば、症状な しに、会社の健康診断などでの心電図検査で偶然発見されることも多い。

最近では、著名人が脳梗塞を起こした原因疾患として有名だろう。高齢になるほど起こりやすく、ある研究では、 現在国内で70万人以上、2020年には100万人を超えるとされている。

心房細動を起こす背景には、加齢や高血圧、糖尿病、そして心臓の病気などがある。飲酒や精神的ストレス、睡 眠不足などの生活習慣もリスク因子になると言われている。

では、見つかったらどんな治療を行えばよいのだろうか。結論から言うと、心房細動は治さなくても、長期的な管 理さえしっかりできれば、生命予後を悪くするようなことはない。

まず、最も重要なのが、死に至る危険性もある脳梗塞の予防だ。心房細動が続くことでできた血栓が、血流に乗 って流れ、ある日突然、脳の血管を詰まらせてしまうことがある。

予防のためには、血液を固まりにくくする抗凝固薬を長期的に服用することになるが、出血しやすくなったり、 納豆・クロレラの摂取が禁止になるなど、生活上の注意が必要だ。

次に欠かせないのが、糖尿病や高血圧など、もともと持っていた病気のより厳格な管理。これらは、心房細動の 原因の1つであり、脳梗塞を起こすリスクにもなる。

従来、心房細動を見つけた医師は、まず、いかに規則正しい脈に戻すかを考え、不整脈を止める薬の投与や電気 ショックなどを積極的に行ってきた。

しかし、最近の国内外の研究では心房細動を元に戻さず、脈拍が速い場合にはそれを薬剤でコントロールする だけでも、生命予後は変わらないことが分かった。心房細動そのものよりも、むしろ、その裏にある背景因子(心不 全、糖尿病、脳梗塞の既往など)が生命予後に強い影響を及ぼしているという考えが広がってきたのだ。さらに、 心房細動を治しても再発のリスクは常にあるため、多くの場合、脳梗塞予防などの管理は続ける必要がある。

もちろん、自覚症状が強かったり、生活に不都合が生じているような場合には、心房細動を治すことで楽になる ケースが多々ある。ただし、特に症状もないような場合には、積極的に治さなくてもよいだろう。

不整脈と聞くと、生命に直結する怖いイメージを持たれがちだが、心房細動は今や、高血圧や糖尿病などと並ん で、ありふれた病気になっている。いたずらに恐れず、生活習慣の改善や管理を心がけてほしい。
(談話まとめ:未田 聡美=日経メディカル)

[出典:日経ビジネス、2008/10/27号、山下 武志=心臓血管研究所(東京都港区)組織研究部門研究本部長 ]

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