【食道裂孔ヘルニアで胸焼け】
時々、胸焼けを起こし胃液も上がってくるKさん(46歳)。
病院での検査の結果、食道裂孔ヘルニアによる逆流性食道炎と診断された。
本来、食道と胃は、横隔膜を境に、胸腰部に食道が、腹部に胃が位置している。食道は横隔膜に開いた食
道裂孔を突き抜けているのだが、胃がその穴から胸腰部にはみ出している状態を「食道裂孔ヘルニア」と言う。
このヘルニアには3つのタイプがある。一番多いのが滑脱型で、胃の上部が全体的に裂孔からはみ出し、食道と
胃をつなぐ噴門が、胸腰部に位置するようになる。噴門が緩み、胃からの逆流を防ぐ仕組みがうまく働かなくなる
と、胃液や胃の内容物が食道へと流れ、逆流性食道炎を起こしやすくなる。
2つ目のタイプは、胃の一部が裂孔から食道に沿ってはみ出している傍食道型。3つ目は滑脱型と傍食道型を同
時に起こしている混合型である。傍食道型も混合型も珍しいケースだが、部分的にはみ出している胃が締めつけら
れて壊死する危険もあるため、これらのタイプでは胃を元の位置へと修復する手術を行う。
食道裂孔ヘルニアは、健康診断で見つかる場合が多いものの、滑脱型で何も症状が出ていなければ、特に心配は
いらない。胃下垂と同様に、症状がないうちは治療の必要もないのだ。問題となるのは、ヘルニアのせいで逆流性
食道炎を起こしてしまっている時である。逆流性食道炎の患者さんの多くは、Kさんのように食道裂孔ヘルニアが、
その病気の原因になっている。
逆流性食道炎になると、胸痛、胸焼け、胃酸の逆流といった不快な症状が表れる。中でも最も怖いのは、食道ガ
ンになる確率が高まることである。本来、食道粘膜は、酸性の高い胃液に耐え得るようにはできていない。そこで、
繰り返し酸にさらされるうちに、食道粘膜が胃粘膜のように異質に変化していく。すると、ここにガン細胞が生ま
れやすい環境ができてしまうのだ。
不快な症状を、我慢して放っておくと、取り返しのつかないことにもなりかねない。逆流性食道炎の症状に気づ
いたら、できる限り早い受診をお勧めする。検査はバリウムによる]線造影、内視鏡が一般的であり、逆流性食道炎
と診断されれば、胃酸の分泌を抑える薬など、服薬による治療が行われる。
食道裂孔ヘルニアは、生まれつきの体質ということもあるが、加齢によって食道裂孔の回りの筋肉が績むために
起きてしまうことも少なくない。また、腹庄が上がることでも起きやすくなる。逆流性食道炎を予防するためにも、
食道裂孔ヘルニアを起こさぬよう気をつけるに越したことはない。
肥満は、腹庄が上がるので要注意だ。腹部を締めつけるズボンやベルトは避けた方がよいだろう。背中を丸めた姿
勢も腹庄を上げるので、長時間デスクに座っている時には、意識して背中を伸ばすよう心がけたい。食事は、暴飲
暴食を慎み腹八分目に。食後すぐ横になる習慣はやめるなど、生活習慣の改善も必要だ。
(談話まとめ:仲尾 匡代=医療ジャーナリスト)
[出典:日経ビジネス、2008/10/20号、高橋 信一=杏林大学医学部付属病院(東京都三鷹市)消化器内科教授]
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